@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』

 

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』 (The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry) [2022年イギリス]

定年退職し妻モーリーンと平穏な日々を過ごしていたハロルド・フライのもとに、北の果てから思いがけない手紙が届く。差出人はかつてビール工場で一緒に働いていた同僚クイーニーで、ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという。近所のポストから返事を出そうと家を出るハロルドだったが、途中で考えを変え、800キロ離れた場所にいるクイーニーのもとを目指してそのまま手ぶらで歩き始める。ハロルドには、クイーニーにどうしても会って伝えたい、ある思いがあった。監督はヘティ・マグドナルド。脚本&原作はレイチェル・ジョイス。出演はジム・ブロードベント(ハロルド・フライ)、ペネロープ・ウィルトン(モーリーン)ほか。

 

 本作の監督はヘティ・マクドナルドという方で女性の監督である。普段はドラマや舞台を監督しているようで、長編映画は本作で2本目で27年ぶりの新作だそう。それに1作目はBeautiful Thing(1996)という作品でクィア映画らしく、そっちも観てみたくなった。撮影はケイト・マッカラで『コット、はじまりの夏』も撮影した女性である。彼女が撮影しただけあって非常に田園風景を美しく捉えている。原作を書いたレイチェル・ジョイスが脚本も担当している。カメラの外側に女性がたくさん関わっている映画である。

 

 別につまらなくは無いのだが、信仰がテーマの映画だなと思った。ハロルドが歩き仲間を意図せず集めてしまい、彼らが巡礼者を自認し始める頃には「あ~、これは完全に信仰についての映画だ」と思った。興ざめしたなと思ってたら、なんと小説の原題がThe Unlikely Pilgrimage of Harold Fryで日本語タイトルは『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』だそうで、おそらく本作を日本で配給する際に信仰の要素を消した日本配給が悪いなと。

 

 ただそれを加味しても個人的には好きじゃない。ハロルド・フライという"長い人生の中で長距離を歩く"以外のやりがいみたいなことを達成したことがないという、ある種の"特権"を持っている男性に対して”出来すぎている”話だなと思った。ハロルドがガソリンスタンドで働いている女性に宛てた"真実"の手紙も、ちゃんとその女性は妻のモーリーンに見せに行き、遠回しでモーリーンは"真実"を知るところとか、とにかくこの映画はハロルドに対して"出来すぎている。そもそもハロルドとクイーニーの友情も具体的にはよく理解できないし、そもそもハロルドが本来なら退職すべきなのにそれをクイーニーが庇って代わりに退職するって、とんでもない慈悲の持ち主だと思うのですが、そこをぜんぜん本作は描かない。あれくらいの年齢の女性が独身で生活していて、いきなり退職するってかなりの決断だと思うし、それこそハロルドが長距離歩くより、よっぽど勇気のある行為だろう。クイーニーもモーリーンも長い人生があるのに、ハロルドという1人の男性としか人生のアイデンティティが無いみたいで、それも高齢の女性を馬鹿にしているなと思ったけど、結局クイーニーもモーリーンも道中でハロルドを慈悲の心で助ける女性たちと同じなのだろう。というか本作は女性の慈悲についての映画なのかな?

 

 本作を観ながら私は『フォレスト・ガンプ/一期一会』を思い出した。あの映画が本作と似て非なるところは、フォレストがベンチで女性に語る話をその女性はおそらく本当の話だと思って聞いてないし、何なら「変な奴が話しかけてきて面倒くさい」くらいに思っているだろう。しかしフォレストとジェニーと映画を観ている観客は、そのフォレストの話が本当だと知っていて、それが『フォレスト・ガンプ/一期一会』という映画の良いところだと思う(逆に悪いところもいっぱいある映画ですが)。ここで一つ提案がある。本作『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』もハロルド・フライのホラ話から始まる映画にして、ハロルド・フライの真実はハロルドと映画の観客だけが知っているみたいなオチすれば、私は本作を好きになったのにな。