@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

 

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』 (The Holdovers) [2023年アメリカ]

 

物語の舞台は、1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。生真面目で皮肉屋で学生や同僚からも嫌われている教師ポールは、クリスマス休暇に家に帰れない学生たちの監督役を務めることに。そんなポールと、母親が再婚したために休暇の間も寄宿舎に居残ることになった学生アンガス、寄宿舎の食堂の料理長として学生たちの面倒を見る一方で、自分の息子をベトナム戦争で亡くしたメアリーという、それぞれ立場も異なり、一見すると共通点のない3人が、2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすことになる。監督はアレクサンダー・ペイン。脚本はデビッド・ヘミングソン。出演はポール・ジアマッティ(ポール)、ダバイン・ジョイ・ランドルフ(メアリー)、ドミニク・セッサ(アンガス)ほか。

 

 アレクサンダー・ペイン監督は過去にロース・マッゴーワンに告発されたことがあり、それに加え本作を製作したのがあのミラマックスということで、本当に観る気が起きなかったのだが、それでも話題作だし、観ることを拒否できるほど私は意志が強くないので、結局観に行ってしまった。念のためにローズ・マッゴーワンの時系列をまとめておきます↓。

「ファミリー・ツリー」監督、未成年をレイプか 女優ローズ・マッゴーワンが告白 : 映画ニュース - 映画.com (eiga.com)

性的暴行疑惑の監督が反論、告発女優は「彼を暴くことが自分の使命」 | ムビコレ | 映画・エンタメ情報サイト (moviecollection.jp)

それにしてもミラマックスは性暴力加害の渦中にある監督の作品に出資するって、ビジネス的な意味でも、どう考えても会社としてマイナスだと思うのですが。それがアカデミー賞まで行ってしまうので、あの数年間はただの自粛モードだったのかって感じ。

 

 一応映画の中身に触れると、演出が70年代に存在していそうな映画の雰囲気で感じで、そのこだわりは良いと思った。内容もアップデートされているもの、アメリカ映画らしい父と息子(この映画の実の父子は崩壊しているが、それを補完する疑似的な父子関係がある)、傷ついた魂が出会って新しいケミストリーを起こす、今はダメでも新しい門出があるという再出発を祝福するなど、とにかくアメリカ映画の美徳が全面に出ている映画だ。逆に言うと、どんなアメリカ映画も父と息子を描かずにはいられない、自分たちの傷を癒すのに自分たちがつけた傷には無関心、というのがアメリカ映画の弱さでもあると思う。

 

 本作の舞台は伝統ある寄宿学校が舞台だが、この寄宿学校を卒業した男性たちはアメリカ社会の色んな組織を牛耳るエリートたちでもある。彼らはそこで培ったボーイズクラブ的なノリをあらゆる場所で発揮させているせいで、今のアメリカは滅茶苦茶であることは言うまでもない。それを製作側も分かっているようで、白人男性や男性のエリート思考を皮肉るセリフも本作にはたくさんある。それを担っているのが黒人女性のメアリーだ。彼女の役は言わば2023年の価値観から見た70年代へのツッコミ役であり、白人男性の監督&脚本家によるセルフ罪滅ぼしという大役を背負わされた黒人女性だ(念のため、奥行きある人物設定にはなっている)。

 

 一方で本作に出てくるメアリー以外の白人女性は嫌な時にしか出てこない。ポールを恋心があるようにその気にさせたり、ポールのむかしの同級生である夫の活躍を嫌な風に自慢したり、特にアンガスの母親の描かれ方は"嫌な女"そのものだ(本作はどうしたってアンガスに感情移入するんだから、あの母親は本作最大のヴィランだ)。久しぶりに悪い意味で女性を二元論でしか捉えていない映画を観た気分だ。ローズ・マッゴーワンの件もあり、わざと白人女性を悪く描いているとしか思えなかった。だったら最初からメアリーを主人公にするくらいの度量を見せてくれた方が、はるかに良いよ。