@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『Pearl パール』


『Pearl パール』 (Pearl) [2022年アメリカ]

 

スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れるパールは、厳格な母親と病気の父親と人里離れた農場で暮らしている。若くして結婚した夫は戦争へ出征中で、父親の世話と家畜たちの餌やりの毎日に鬱屈とした気持ちを抱えていた。ある日、父親の薬を買いにでかけた町で、母親に内緒で映画を見たパールは、ますます外の世界へのあこがれを強めていく。そして、母親から「お前は一生農場から出られない」といさめられたことをきっかけに、抑圧されてきた狂気が暴発する。監督はタイ・ウェスト。脚本はタイ・ウェストとミア・ゴス。出演はミア・ゴス(パール)、デヴィッド・コレンスウェット(映写技師)、タンディ・ライト(ルース)、マシュー・サンダーランド(パールの父)、エマ・ジェンキンス=プーロ(ミッツィー)ほか。

 

 A24が製作&配給する『X エックス』のシリーズ第2作で、前作は1970年代が舞台だったが、本作では60年前の1918年のスペイン風邪大流行と第1次世界大戦中のテキサスが舞台になり、どちらかというと前日譚的な立ち位置の映画である。前作で強烈な印象を残したパールの若き日を描いている。シリーズの完結篇である『MaXXXine』も現在製作中だそう。

 

 前作と比べてあからさまなセックス・シーンが無いし(思わず笑ってしまうアレなシーンはあるが)、スプラッター・シーンも少なく、人が殺されるシーンも突然来るわけでなくちゃんと前振りがあって分かりやすいし、非常に観やすい。美術は色鮮やかで綺麗だし、何より昔のメロドラマ映画やホラー映画みたいな豪勢なスコアが凄くて映画に引き込まれる。

 

 おそらくカカシが登場する設定とか主人公の女性が田舎町に退屈していてどこか別の場所に憧れる設定(まあこれは全ての女性に当てはまる普遍的な思いだが)とかは明らかに『オズの魔法使』の影響を感じるのだが、やはり根底にあるのは『悪魔のいけにえ』の影響かな。

 

 前作は16ミリで撮影してザラザラ感を演出したが(A24は16ミリフィルム撮影が大好きな会社だ)、本作ではテクニカル・カラーをフルで駆使したかなり現代的な映画だ(設定は1918年だけど)。

 

 本作では主演のミア・ゴスが脚本にも参加しており、前作より観やすくなったのは彼女の功績が大きいのだろう。また女性たちの生きずらさと閉塞感に焦点を当ててホラーと上手に組み合わせたのも上手いと思った(この辺もオーソドックスなホラー映画と言えるかもしれない)。続篇の『MaXXXine』も彼女が脚本に参加しているといいのだけど。本作のラストに立て続けにロングテイクがあるのだが(パールが出征した夫への不満をミッツィーにぶつけるシーン!とか、そこからすぐにミッツィーを殺すシーンとか、出征した夫が帰ってきたときに狂気の表情でパールが迎えるシーンとか)、あれは脚本に参加したからこそできたシーンだろうし、それくらい思いが強いのだろう。

 

 前作の『X エックス』が好きな人にはたまらないオマージュ・シーンがたくさんある。例えば冒頭の扉から始まるシーンとかパールが鏡を見つめるシーンとか。前作にも明確にあった"こちら側"と"あちら側"を分ける演出とか、とにかく芸が細かい(セットもほとんど同じらしい。これぞサステナブル!)。

 

 純粋で無垢なシリアルキラーの誕生が本作の肝だが、この映画で描かれるパールの不満や不平等や抑圧は今も昔も女性にある普遍的なものなので、それを殺人衝動に結びつけるとかえってパールの"普通じゃない"感じが浮き彫りになって面白いなと思う反面少し陳腐な気もした。それでもすごく面白い映画だった。