@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』

 

『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 (La Syndicaliste) [2022年フランス・ドイツ]

 

世界最大の原子力企業アレバ社のフランス民主労働組合代表を務めるモーリーン・カーニーは、中国とのハイリスクな極秘取引を知り、会社の未来と従業員の雇用を守るため内部告発をする。やがてモーリーンは自宅で襲われるが、権力側は彼女の自作自演だと自白を強要。モーリーンは屈することなく、政府の閣僚や企業のトップを相手に捨て身の覚悟で立ち向かっていく。監督はジャン=ポール・サロメ。出演はイザベル・ユペール(モーリーン)、グレゴリー・ガドゥボワ(ジル)ほか。

 

 本作の前半は原子力発電所の従業員の雇用を守るために会社を内部告発に至るまでの過程とその努力を描いている。後半は自宅で襲撃され性犯罪を訴えるもなかなか聞き入れてもらえず、被害もまともに取り扱ってくれず、それどころか捜査の過程で二次被害にあったり、挙句の果てに嘘呼ばわりして逆に被害の自作自演を疑われ逆に容疑者にされてしまうことを描いていて、不当な権力や社会不正義や性暴力告発の難しさを実直に描いた作品である。

 

 観る前は原子力発電所の従業員(女性が多い)を守るための不正と闘う裁判映画かと思っていたら、映画の後半ではモーリーンが自分の被害を受けたのを男性だらけの捜査官の前で再現されたり何度も不必要に膣検査を受けさせられたりする姿を描くのにけっこう時間を割いていたので、性暴力告発の難しさに重きを置いた作品だと感じた。

 

 凄く後味の悪い映画だが、これが恐ろしことに実話である。不正にかかわった人や最初に企業告発をした男性たちが亡くなっているということもあり、今に至るまでもモーリーン・カーニーの名誉を回復する戦いは続いているが、この映画が製作され公開されることで少しでもモーリーン・カーニーの名誉が回復することを願うと共に映画はこういう力があるのだと再確認させられる。嘘つき呼ばわりされた女性の名誉が回復するという意味では今年公開された『ロスト・キング 500年越しの運命』に似ている。

 

 全体的にまったりとしたテンポで進んでいくが、性暴力告発の難しさを描いている面もあるので、モーリーンの名誉を回復させるのを一番の目的にしているのは伝わってきた。またモーリーンはフランシ在住のアイルランド人らしのですが、そのアイルランド人で不正や権力と闘うというだけでけっこう映画的に意味がありそうなのだが、そのへんの言及はあまりなかったのが残念だし、アイルランド人をフランス人のイザベル・ユペールが演じていいのだろうかとも思った。それでも相変わらずイザベル・ユペールはすごく良いし、モーリーンの夫を演じるグレゴリー・ガドゥボワも可愛い(この映画でこんな感想を抱くのは不謹慎ですね、すいません)

 

 最後にアジアに住む日本人としてすごく気になった点を挙げる。おそらくこの映画の中にある原子力発電所を買収しようとする中国は見えるけど見えない敵みたいな存在だ。そもそも中国に買収されても従業員を解雇するか否かは別の話だろうし。それでも映画の中では見えない敵だ。それなのにこの映画に出てくるフランス人はアジアの文化を消費していたし(モーリーンが日本食?レストランに通っていた)、モーリーンの無茶苦茶さをカミカゼに例えてもいた。風刺の意味があったのか分からないが、すごくその辺が気になる。あと日本人として盲目に原子力発電所の存在を肯定するのも複雑な気分になった(というかフランス映画の中でしっかりアジアが描かれていることなんてあったか?と思うが、それは我々日本も同じなんだよな)。