『ダンガル きっと、つよくなる』(Dangal)
アーミル・カーン主演の『ダンガル』を観てきた。今作は実在するインドの女子レスリング選手の姉妹をモデルにその父親との関係を映画化したものである。今作は父親と姉妹以外はすべてフィクションである。
インド映画なのでやはり歌が随所に使われるのだが、今作はあくまでBGMのような扱いであるが、かなり興奮する使い方でかなり効果的である。また映画ではあるが、レスリングという競技について非常に丁寧に描かれており、初心者である私ですらレスリングについて詳しくなれるくらいである。映画全体も非常にコミカルな作風ではあるが、映画の根底にはかなり女性をエンパワーメントする内容である。
「女は神聖なレスリング場にあがるな」という考えに真っ向から中指を叩き付けている作品であり、保守的なスポーツ界や女児の可能性を奪う社会をこれでもかというくらいに諷刺している。これは主演である、アーミル・カーンの狙いであり、今作のメッセージでもある。
今作はかなり父親からの厳しい指導があるのだが、姉妹たちも(とりわけ姉が)ただ従うのではなく、反抗もしている。映画の後半は古い教えを説く父親と新しい教えを説くナショナルチームのコーチとの小競り合いが話の中心になっていた。
また国際試合で姉が優勝した時に、ダンガルはその場で試合を見れずに閉じ込められた倉庫みたいなところで、流れてきた国家で娘の優勝を知るというシーンは、映画上映時には必ず国家を流すようになったインドへの痛烈な皮肉だと思う。(未だにそうだよね?)
一方で女子をエンパワーメントする素敵な映画ではあるが、それは常に父親との関係を中心にしているのでかなり保守的な映画でもあると思う。まあ理解ある父親がいないと女性は自立できない社会への痛烈な皮肉かもしれないが、映画自体はあまりその辺を突っ込んでなく、感動系なラストにしたので、私は保守的な感想を抱いた。その証拠に姉妹たちがレスリングに奮起する理由が幼くして結婚した友達が「あなたの父は娘思いよ」というところがあるし。
しかし、本邦ではレスリング協会における組織的なパワハラ、女性は神聖な相撲場にあがるなという意見が出てくるくらいなので、この映画が少しでも風穴を開けてくれたらいいと願っている。きっと、そうなる。