GB19940919’s diary

GB20th(https://twitter.com/GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』

ポップ・ミューシックを分かっている人が作ったちゃんとした音楽映画

 

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ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』(The High Note)

 

ロサンゼルス。グレースは歌手として精力的に活動していたが、若い頃のようなヒットを出せずにいた。停滞期を脱するべく、グレースは新作アルバムの製作に乗り出そうとしたが、周囲の反応は芳しくなかった。マネージャーのジャックに至っては「貴方の新作アルバムに関心を持つ人がいるとは思えない。業界の一線に居続けることはもう諦めた方が良い。これからはラスベガスのショーを中心に活動してはどうか」と言う始末であった。

その頃、グレースの雑用係、マギーは日々の仕事にうんざりしつつも、音楽プロデューサーになる夢を叶えるべく奮闘していた。そんなある日、マギーは歌手の才能を秘めた男性(デヴィッド)と出会った。先が見えないことへの焦りもあって、グレースはデヴィッドを巻き込んで賭けに打って出た。そのことがマギーとグレースの人生を大きく変えることになった。

 

 監督は女性でオープンリーなレズビアンのニーシャ・ガナトラが務めている。主演がトレイシー・エリス・ロスがダイアナ・ロスの娘さんと言うことだけあって、本作は非常にポップミューシック、特に女性ポップスターに詳しく知っている人が作った非常に優れた音楽映画だと思う。

 

 まずダコタ・ジョンソン演じるマギーが音楽プロデューサーになりたいという夢を持っている女性という設定自体が結構音楽映画では珍しい。音楽映画は基本的にはミュージシャンになりたい人を描くことが多いし、そちらの方が映画として物語性があるからである。しかしこの映画はプロデューサーになることが主人公の目的として作用している大変画期的な映画である。(まあトレイシーが演じるグレースは典型的にはディーヴァであるが) 現実を見ても女性音楽プロデューサーはとても少ないので、やはり本作はかなり先鋭的なまなざしをもって作られている。

 

 またグレースもラスベガスの常設公演ではなく、ニューアルバムを作りたいという願望が芽生えるのもいい設定である。まずグレースは長い間ニューアルバムをリリースしてなく、過去の曲を中心にツアーを精力的にすることで稼いでおり、それは少しミューシックとしては経済的には成功するが、創作するという意味では完全に死んでいる状態のミュージシャンである。そこで精神的にも体力的にも年齢的にも辛いツアーはやめて、ラスベガスの常設公演で定期公演を行い稼いでいこうとマネージャーに打診される。実際にラスベガスの常設公演はベテラン・アーティストが何人も常設公演を行っており、彼らはかなりの額をそこで稼いでおり、れっきとしたミュージシャンの稼ぎ場になっているのである。実際、セリーヌ・ディオンブリトニー・スピアーズやバックストリート・ボーイズは常設公演でかなり成功している。(ちなみにマネージャー役のアイス・キューブが常設公演の正反対の精力的な活動をしている例としてあげたミュージシャンはブルース・スプリングスティーンであり、彼の最新のアルバムの名前もしっかりと映画の中に出ており、この映画を作った制作人は本当に下調べを入念にしていると思う) しかしグレースはマギーの夢を追う姿やマギーのアドバイスに感化され、ラスベガスの常設公演という安全ではなく、アーティストとして進化する方である新しいアルバムを出すことにするのである。しかし中年の女性ポップスターが久しぶりにアルバムを出すのはかなりハードルが高いのである。とにかくポップ・ミュージック界は年齢が低ければ低いほど売れる界隈であり、しかも中年の黒人女性であるグレースにとってはかなりハードルが高いのである。それでも本作のラストはマギーがプロデュースした"Love Myself"というセルフ・エンパワーメント・ソングでシーンに復帰する。これは歌手のシェールが"Believe"をリリースした時に似ているのであるが、やはりこの映画を作った人は本当にポップ・ミュージックをよくわかっていると思う。

 

 こんなにポップ・ミューシックに対する愛が伝わる映画は珍しい。しかも女性が音楽プロデューサーを目指し、中年の黒人女性アーティストは新しいアルバムで再起を目指すという非常に先鋭的な物語を持った名作であると思う。