@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『プリシラ』

 

プリシラ』 (Priscilla) [2023年アメリカ・イタリア]


14歳の少女プリシラはスーパースターのエルビス・プレスリーと出会い、恋に落ちる。やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅でエルビスと一緒に暮らし始める。これまで経験したことのない華やかで魅惑的な世界に足を踏み入れたプリシラにとって、彼のそばでともに過ごし彼の色に染まることが全てだったが……。監督&脚本はソフィア・コッポラ。原作はプリシラプレスリーの『私のエルヴィス』。出演はケイリー・スピーニー(プリシラ)、ジェイコブ・エロルディ(エルヴィス)ほか。

 

 ウェス・アンダーソンソフィア・コッポラって私の中で同じ箱に入っているのですが、本作でソフィア・コッポラが一歩出てきてくれたというか、純粋に良いと思った。そりゃそもそも彼女の方が女性を主役にするし、かつ男性もよく描けているので好きな要素もある。ただ相変わらず主人公以外の周囲の人間の描き方が薄いし、人種や階級については相変わらず無頓着だ(どう考えても本作で一番魅力的なのは、エルヴィスの祖父と家事手伝いのアルバータだ)。人種やジェンダーの描き方を無視して、このストーリーが良いか悪いかを決めて、そこから「前より良い作品を作った」と評価されること自体、作家としてかなり甘やかせるけど(圧倒的にこういうのは白人男性の監督が多いけどね)。

 

 「これぞ作家性」というぐらいに過去作と類似する点が多い。満たされない女性、父と娘、孤独、センチメンタル、大きい家に小さい女性、共感してくれない周囲の人々、時代を超越した音楽センスなど、こんなに分かりやすく作家性を提供してくれる人いないよ。映画の教科書に載せるべきだよ。

 

 いつものソフィア・コッポラ作品と違って本作に嫌な感じが薄いのは(ファンの人がいたらごめんなさい)、実話ベースでかつ身内の話だからかな。確かニコラス・ケイジってリサ・プレスリーと結婚してたよね。これが完全にオリジナルだったら受け付けなかったけどね。ここ数年でアメリカで縁故主義が話題になっていたけど、そんな縁故主義の元祖的存在のソフィア・コッポラが身内に向けて、こういう映画を作ったのはけっこう面白く、ある種の縁故主義の中にいる人間のアンサーだと思う。ただ画面にシャネルの香水がドカーンと出てきたときはさすがに嫌味な気分になったけどね。

 

 バズ・ラーマンの『エルヴィス』の中でちょっとした触れられなかったプリシラの話をって感じで。ただ本作でプリシラが心の拠り所にしていたリサが去年お亡くなりになっているのを踏まえると少しやりきれない映画でもある。『エルヴィス』ではエルヴィスの私生活(女性関係)をだいぶマイルドに描いているぶん全体的にクリーンな映画だと思ったが、『プリシラ』ではプリシラの目線を通して、派手じゃないにしろ、エルヴィスという人間の欠点を描いている。少なくともエルヴィスはプリシラと出会う時から問題アリで、あの取り巻きがエルヴィスと引き合わせようとする一連の流れはグルーミングそのものだと思う(ちょっと松本人志を思い出した)。それに未成年のプリシラと付き合っているって現代の目線から見るとアウトだなって思うし。付き合ってからもハラスメントの連続で(もちろん愛を感じていた時間もあっただろうが)、プリシラはエルヴィスの好みに変化させられ、まるで人形だ。

 

 アメリカの理想カップルは実はこんな問題がありましたよ(特に男性の方が)、現代の目線で見るとこんなんですよと言っているようだ。アメリカというのはケネディ大統領とジャクリーン(もちろん歴代の大統領とその夫人カップル)、アンジェリーナ・ジョリーとブラット・ピット、みたいな有名カップルを讃えて、そしてその裏話を想像するのが大好きだ。2024年でどれだけジャクリーンがケネディに泣かされていたかをみんな知っているし、アンジーとブラピが離婚裁判をしているというのに、未だにアメリカ人は理想のカップルを欲しているし、讃えたいと思っている(最近だとテイラー・スウィフトがその役目を自ら買って出ている)。そのカップルを理想とする幻想を風刺しているのが『プリシラ』なのかもしれない。

 

 あとどうしても『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』『スペンサー ダイアナの決意』『ブロンド』など大きい部屋に女性が一人いて、それをロングショットで撮るみたいな映画の元祖って何ですかね。こないだ観たトッド・ヘインズの『S A F E』もそういう撮り方をしてたのですが、まさか『S A F E』じゃないよね。『サンセット大通り』じゃないかと思っているのですが。あと大きい部屋に女性が一人という映画はおのずと話が似てくるね。