@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『異人たち』

 

『異人たち』 (All of Us Strangers) [2023年イギリス]


12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム。ロンドンのタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。その一方で、彼は同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちるが……。原作は山田太一異人たちとの夏』。監督&脚本はアンドリュー・ヘイ。出演はアンドリュー・スコット(アダム)、ポール・メスカル(ハリー)、ジェイミー・ベルクレア・フォイほか。

 

 山田太一が書いた小説の方も1988年に映画化された方も観たことないので、本作だけの感想になります。『生きる』でもイギリスでリメイクされましたが、本作はそれ以上にイギリスとクィアという文化に物語が馴染んでいて驚かされる。山田太一版を見たことが無いのでどちらの才覚が優れているとか指摘しようがないのだけど。ただ撮影も音楽も演技も脚本もすごく好みで観て大変良かった。そもそも日本は幽霊が活きている人間に対して何か良いことをしてくれるみたいな話が好きなのか、そういう作品がドラマでけっこう放送しているので、本作もけっこう広く受け入れられると思う。ぜひ多くの人に見てほしいと感じた。

 

 『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ)や『秘密の森の、その向こう』(セリーヌ・シマラ)に続く、クィアと時間旅行と家族をテーマにしている作品で、それらと同じ部類にあると言っていい。"クィアと家族"はほぼ永遠のテーマだが、クィアと時間旅行も題材として多い。だからこそアンドリュー・ヘイ監督が原作である『異人たちとの夏』を見つけて良いと思ったのも自然と言えば自然だ。クィア(本作の場合はゲイと言った方が良いのかな)を自認している監督と時間旅行で一本評論が書ける気がする。

 

 ゲイを自認する監督たちの多くはやはり親と和解したい、親の心労を理解したいと思う人たちが多いのか、本作でもそうだ。あの時、子どもの時、親に言えなかった思いを大人になって直接伝えたいと思うのだ。まあこの思いは誰にでもあるだろう。本作の中で「ゲイでいることと、悲しいことは違う」とアダムが母親に伝えるように、普遍的な悲しい思いは皆にあるものだという、本作は普遍的な物語であることを描いている。

 

 一方で本作は大変クィアでゲイな映画でもある。超ゲイであることを隠してもいない。それはアダムとハリーがセックスするシーンで最大に描かれているが、その他のキスシーンとか会話とかにもある。もちろん使用される音楽にもそれがあるが、ラストに流れるFrankie Goes To Hollywoodの"The Power of Love"の使い方は見事だな。というかFrankie Goes To Hollywoodをああいう風に使えるのはゲイの監督ならではだし。もちろん予告編からも良い感じで使われていたPet Shop Boysの"Always on My Mind"も良かったね。最近はゲイであることを自認するアーティストは増えたけど、80年代もちゃんとゲイを自認しているアーティストはたくさんいたんだ。このあたりはアメリカとイギリスの音楽シーンの違いみたいなのも感じる。

 

 去年公開されたクィア映画では、少なからずゲイの登場人物たちが自死を選んでいたのに食傷気味だったのだが、実は悲しいことに本作でもハリーは死んでいる。それでもネガティブな感じが無いのはやはり"死"ではなく"生きる"ことを描いているからだ。また色んな意味での受容を描いている。相手の身体、両親の死、自らの不安など、自分と相手の異なる物事すべてを受け入れ生きていくことを描いている。この色んな意味での受容を描いているのは去年公開された『青いカフタンの仕立て屋』(マリヤム・トゥザニ)とも比較できる。あれも受け入れる側の男性の映画だから。

 

 あと本作はゲイの恋愛でも実は歳の差恋愛を描いている。アンドリュー・スコットが若く見える、ポール・メスカルが28歳なのに円熟している、という条件が重なり歳の差恋愛には見えないが、逆にその年の差恋愛に見えない感じが異人たちという雰囲気を演出するのに一役買っているので、キャスティングの勝利だろう。