@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『コット、はじまりの夏』

 

『コット、はじまりの夏』 (An Cailin Ciuin) [2022年アイルランド]

 

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに。はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。監督&脚本はコルム・パレード。原作はクレア・キーガン。出演はキャサリン・クリンチ(コット)、キャリー・クロウリー(アイリン)、アンドリュー・ベネット(ショーン)ほか。

 

 私の地元の映画館や電車で1時間以内に行ける映画館で本作の公開が無く、泣く泣くCSで放送されるまで待つしかないかなと思っていたが、どうもSNS等で高評価で私が好きそうなスタイルの映画なので、頑張って遠出し新宿シネマカリテにて本作を鑑賞してきた。結果、本当に遠出してでも観に行って良かった、本当に素晴らしい映画だった。

 

 マイク・ミルズセリーヌ・シアマらと同じく子どもへの眼差しが優しく映画であった。私がたぶん子供みたいな性格なので、どうしても子供への眼差しが優しさに溢れているこういう映画にめっぽう弱いみたいだ。全体的に『カモン カモン』と似てるし(ただ別れの部分の温度差が結構違う)、赤毛のアンが好きな人は絶対に好きだと思う。

 

 映像が美しくて、それだけでなく音にもこだわっているのが伝わってくる。絶対に何かしらの音がなっていて(作業の音、牛が泣く音)、その音がコットの不安な感じと心安らいでいる感じの差を表現するために使われていて見事な演出だと感じた。コットに寄り添うカメラワークも素敵で、常にこの映画はコットの視点を大事にしている。非常に子どもの寄り添った作品だ。全体的にすごく静かな映画だけど、すごく色んなことを伝えている、情熱に溢れた作品だと思う。光の演出が『aftersun/アフターサン』に似てるけど、それと比べると本作の方がずっと理解しやすい。

 

 おそらくラストのコットが「Daddy」と呟くシーンは泣くと思うが、そのシーンにも顕著であるが、本作はけっこうな疑似"父と子"映画である(お父さん大好きアメリカで受けたのは理解できる)。ここは監督の実体験と言うか、「こうあって欲しい」「こうなりたい」父親像があるのかな。貧しさ、何かが欠如した環境、失われた父性を補完しようとしている。

 

 ラストのコットはきっと自分の家に帰るだろうし、今後アイリン夫妻に会うこともないかもしれない。でもあの夏に過ごした時間と思い出、初めてありのままの自分を受容してくれた体験などはコットの大切な思い出になるし、これから起きるであろう困難にも立ち向かえるだけの自己肯定感が養われている思う。この自己肯定感がコットの家庭ではなく、疑似的な家族の中で培われているのは興味深いしリアルだ。

 

 1つ悪いところを挙げると、ラストのコットがアイリン夫妻のもとへ走っていくシーン。私は走っていくコットを捉えるだけでショーンに抱きつくだけで良かったかな。コットがアイリン夫妻の元で過ごした日々のモンタージュ演出は少しやりすぎというか、説明しすぎというか、とにかく上映時間は奇跡の95分だし、観客はみんなコットが幸せな時間を過ごしたのを知っているのだから、あのモンタージュ演出は必要なかったかな。逆に言えば悪いところはそこだけ、あとは本当に素晴らしい映画だった。