@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『哀れなるものたち』


『哀れなるものたち』 (Poor Thing) [2023年イギリス・アメリカ・アイルランド]


不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。監督はヨルゴス・ランティモス。原作はアラスター・グレイ。脚本はトニー・マクナマラ。出演はエマ・ストーン(ベラ)、ウィレム・デフォー(ゴッドウィン)、マーク・ラファロ(ダンカン)、ラミー・ヨセフ(マックス)ほか。

 

 映画の舞台が19世紀のイギリスだが(その他にはリスボンやパリにも行く)、明らかに時代考証通りではなくスチームパンクみたいなデザインでそれが凄く面白かった。撮影スタイルや編集などはいつものヨルゴス・ランティモス作品と言う感じで、ブラックコメディだった。この際長時間で場面が多すぎるセックスシーンやヌードシーンもそんなに気にはならなかった。ただセックスシーンに関しては去年観たリドリー・スコットの『ナポレオン』の方が好感が持てたかな。それより私は脚本の方が気になる点と言うか、引っかかる点が多かった。

 

 まずこの映画は全体的に描き方のクセが強いが非常にプロ・ライフ的な映画である。ゴッドウィンが自殺(?)したベラの胎児を死んだベラに移植するという話自体が、けっこうプロ・ライフ的な価値観で、もしそれを描くならもっとゴッドウィンが「なぜそんな行為をしたのか」を深く描くべきだ(もしかしたら理由については見逃している部分も多いかもしれない)。というか本作の中ではゴッドウィンが最後まで複雑だけど結構良い父親みたいに描かれているのが疑問だった。ヨルゴス・ランティモス自身の父親との関係が反映されているらしいのだが、それとは別に考えて、私はこのゴッドウィンが良い人間には思えなかったし、ベラはもっとゴッドウィンに怒りをぶつけてもいいのではないかな。そもそもゴッドウィンは宦官だからと言ってベラへの愛やセックスを否定していたが、宦官じゃなかったら...と色々悪い予想をしてしまった。ヨルゴス・ランティモス自身は父親を許したのだろうし父親を許したいとメッセージを込めてもいいと思うが、本作の主人公は女性のベラだし、男性の監督が自分の経験をそのまま女性の主人公に反映させて良いのかな。良いのかもしれないけど、私は好きじゃないな。

 

 またこんなにセックスしまくる映画なのに、全然生理や性病の話が出てこないのも変だなと思った(もし話してたら、私が見落としていた)。別に他の映画でも生理や性病の話が出てこないことは沢山あるけど、本作ってずっと股の割れ目についてあーだこーだ言っている映画なので、そりゃ見ているこっちは生理や性病の心配をするのは当然だよ。

 

 あと原作にはけっこう長尺でベラが医者になりたいという経緯について深く掘り下げられるらしいが、本作では医者になりたいという経緯の描き方が薄い。あんだけ上映時間が長くて、いかようにも描けたのにね。ラストのベラが自殺した謎を解き明かすシーンもうちょっと短くても良い気がした。パリの娼館での女性の性への自己決定権とか労働倫理や社会革命を学ぶとこもテキトーな感じあったし、アレクサンドリアで悲劇を学ぶのも唐突すぎて。これはどっちかというと脚本を担当したトニー・マクナマラが苦手なんだろうな私は。この人が脚本を書いた『クルエラ』もつまらなかったし。