@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『葬送のカーネーション』

 

『葬送のカーネーション』 (Cloves & Carnations) [2022年トルコ・ベルギー]


荒涼とした冬のトルコ南東部。年老いた男性ムサは他界した妻との約束を守るため、彼女の遺体を故郷の地に埋葬するべく棺を背負って旅をしている。紛争の続く地域へ帰りたくない孫娘ハリメは、親を亡くし仕方なくムサと行動をともにする。彼らは旅の途中で出会ったさまざまな人たちから、神の啓示のような“生きる言葉”を授かりながら進み続ける。監督はベキル・ビュルビュル。出演はシャム・シェリット・ゼイダン(ハリメ)、デミル・パルスジャン(ムサ)ほか。

 

 セリフを限界まで無くして荘厳な風景やハリメが描く絵で登場人物たちの過去や未来や現在の気持ちや感情を表現させる演出で凄いが、はっきり言ってしまうと神話みたいだ。トルコとシリアの国境付近であることが分かると、これがどんな話なのか伝わるようにはなっている。映るシーンがとにかく計算されていて、何も起こらなさそうな自然の中のシーンですらちゃんと意味のあるシーンになっている(映画には意味のないシーンはあまりないのですが)。

 

 孫を大切にしようなんて全く考えていない祖父ムサとハリメの関係はリアルで、とにかくハリメの描き方に顕著にみられるが、幼いころの思い出と大人にならないといけない紛争や戦争を体験した子供の喪失と成長を上手に描いている。初めの方はおもちゃが壊れて悲しそうなハリメが、後半ではガソリンスタンドにいた少し大人っぽい少女と自分を比べて「自分は幼いのか?本来はあれくらいなのか?」とおもちゃ(子供らしさの象徴)を捨てて、カチューシャをつけて髪を下ろして大人びてみる。

 

 次に国境付近で捕まったハリメは警察からホットミルクを貰うのだが、そのホットミルクの入ったグラスを落としてしまう。あれは成長の象徴であるミルクを落としたのは、大人になったということのなのか。しかし、この映画の成長はただの成長ではなく、子ども時代の喪失ゆえの成長であり、我々の成長とは異なる残酷なものである。まさしく戦争、紛争下のしたでの成長だ。またこれは全ての国に共通してみられる女の子特有の喪失を含む成長ともいえる(男の子と違い女の子は早く大人になることを求められるので喪失を体験する)。それを踏まえると、ラストのムサち顔が見えない女性との結婚というファンタジーはとても怖い現実を描いていると思ったのだが、どういう意図でああいうラストにしたのか詳しく調べてみたいと思った。