@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『ティル』

 

『ティル』 (Til) [2022年アメリカ]

 

1950年代アメリカで、アフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった実在の事件「エメット・ティル殺害事件」を映画化。1955年、イリノイ州シカゴ。夫を戦争で亡くしたメイミー・ティルは、空軍で唯一の黒人女性職員として働きながら、14歳の息子エメットと平穏に暮らしていた。ある日、エメットは初めて生まれ故郷を離れ、ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れる。しかし彼は飲食雑貨店で白人女性キャロリンに向けて口笛を吹いたことで白人の怒りを買い、8月28日、白人集団に拉致されて凄惨なリンチの末に殺されてしまう。息子の変わり果てた姿と対面したメイミーは、この陰惨な事件を世間に知らしめるべく、ある大胆な行動を起こす。監督はシノニエ・チュクウ。出演はダニエル・デットワイラー(メイミー・ティル)、ジェイリン・ホール(エメット)。

 

 エメット・ティルのリンチされた遺体写真はおそらく世界で一番有名な遺体写真である。2023年を生きる私でも見たことがあるし、アメリカの公民権運動の話になると必ずそのきっかけを与えた事として話にあがるくらいだ。その有名な遺体写真があるということは、もちろんこの映画の中でもそのリンチされた遺体は映るのだが、実際のリンチされているシーンは映さず暴力を匂わせるだけで、極力尊厳を傷つけないように撮られている。もちろん目を背けたくなるのだが、この映画でメイミーが何度も口にするように観客も目を背けずに「見る」べきなのである。もしくはその遺体の臭いがどんなものかを想像すべきなのだろう。

 

 映画の前半はメイミーがエメットの遺体を公開するまでに至った経緯と公開するまでの葛藤を描き、後半はミシシッピにまで赴き裁判でエメットをリンチした犯人たちが有罪になるように働きかけ、結果的に裁判では有罪にできなかったが活動家として人生をかけて黒人の権利のために戦うことになった姿を描いている。つまりこの映画はメイミー・ティルの人生についての映画でもあった。

 

 またこの映画は黒人のリンチを描いているだけではなく、白人女性の特権とリンチに加わる黒人と北部と南部に生きる黒人間の差など非常にデリケートな話題も扱っている先鋭性もある。1955年が舞台の映画で先鋭性と言うのはおかしな話であるが、こういう差別を描いた作品は何個あったも足りないのだろう。それは製作にかかわったウーピー・ゴールドバークも言っていたことだが。