@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『理想郷』

 

『理想郷』 (As bestas) [2022年スペイン・フランス]

 

田舎に移住した夫婦が閉鎖的な村で住民との対立を激化させていく姿を、スペインで実際に起きた事件を基に映画化。主人公夫婦の夫を中心に描く第1部と、妻を中心にした第2部の2部構成で描く。フランス人の夫婦アントワーヌとオルガは、スローライフを求めてスペインの山岳地帯にある小さな村に移住する。しかし村人たちは慢性的な貧困問題を抱え、穏やかとは言えない生活を送っていた。隣人のシャンとロレンソの兄弟は新参者の夫婦を嫌い、彼らへの嫌がらせをエスカレートさせていく。そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトをめぐって夫婦と村人の意見が対立する。監督はロドリゴ・ソロゴイェン。出演はドゥニ・メノーシェ(アントワーヌ)、マリナ・フォイス(オルガ)、マリー・コロン(マリー)ほか。

 

 創作物だと思ったら、なんと実際に会った事件が元らしく、ぜひとも脚色強めであってほしいと思う。じゃないとやりきれない。重い話なのにゆっくりとしたテンポで進むので鑑賞がけっこう辛い。

 

 残された妻が同じく残されるであろう犯人の母親に向かって「あなたも私と同じくひとりぼっちになります。何かあれば私はすぐそこにいます」と本音を吐露するまでの2時間20分であったと思う。このかなり歪だが孤独になる女性同士の関係を強調するに至るまでの、男性同士の醜い争いだったのかな。やりたいことは分かるけど、じゃあもう少し残された女性たちの姿を観たかったな。

 

 アントワーヌが死ぬまでを前半とするなら、ラストの40分がオルガのパートで後半だ。オルガは感情を多く見せる性格ではないが(映画でもアントワーヌが亡くなってからの悲嘆を意図的に描いていない)、そのオルガを観て観客はじっれったい気分になる。「何か感情を見せて」「もうその村にはいないほうがいい」「そもそも住むところも友達関係も夫に合わせた主体性のない」のような。そしてそんな観客の気持ちを代弁するのが娘のマリーだ。後半パートの娘マリーのセリフや母オルガへの視線は全て観客の気持ちだ。そんなマリーがラストの鶏の取引場で黙々と働くオルガを観て安心する姿を見て、「きっと大丈夫だ」と安心するのは、あれだけでオルガの主体性が回復するし、何よりモデルになった女性は今もご健在なのだからね。

 

 ずっと主体性が奪われているように見える女性たちが、ラストに主体性を取り戻す凄い映画だった。そもそも犯人たちの母だってオルガと同じく孤独な立場だ。こんな女性たちは少し前の映画ならたくさん出てきただろうな。こうやって男性たちの映画でも最後はしっかり女性たちの主体性を回復させようと周りが思うのは製作側も観客も成熟している証拠だね。

 

 スペインの田舎怖いホラーかと思いきや、監督はスペイン人だし、そもそも犯人のあの兄弟以外の田舎の生活が人々が見えてこないし、田舎vs都会みたいな日本ポスターの宣伝は間違っているのでは。どっちかと言うとお隣さん怖いホラーだ。ホラーを意図していないホラーというか、やはりラストのオルガのセリフに凝縮している気がする。ただそれを理解するまでの道が険しい。