@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『ファルコン・レイク』

 

『ファルコン・レイク』 (Falcon Lake) [2022年カナダ・フランス]

 

フランスのバンドデシネ作家バスティアン・ビベスの「年上のひと」を原作。もうすぐ14歳になるバスティアンは母の親友ルイーズのもとで夏を過ごすため、家族4人でケベックの湖畔にあるコテージへやって来る。ルイーズの娘である16歳のクロエと出会ったバスティアンは、大人びた雰囲気の彼女に恋心を抱く。クロエの気を引くため、幽霊が出るという湖へ泳ぎに行くバスティアンだったが……。監督はシャルロット・ルボン。出演はジョゼフ・アンジェル(バスティアン)、サラ・モンプチ(クロエ)ほか。

 

 監督は俳優としても活躍しているが本作が長編デビューである女性監督のシャルロット・ルボンである。上記にあるようにフランスの作家であるバスティアン・ビベスの『年上のひと』をベースに舞台をカナダのケベックに移し映画化している。カナダにはフランス系が多いが、本作内でも話される言語のほとんどはフランス語であらすじを調べないとカナダとは分からない感じになっている。この演出も少し人里離れたところひと夏の体験なのだと錯覚させる効果が出てた。また16ミリフィルムで撮影されており、それがザラザラとした感触で、何かのビデオを再生しているような、誰かの想い出を再訪しているような、気分にさせてくれる。この感じは今年観た『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ)と同じだが、最近の流行なのだと思う。ただ16ミリフィルムってミニシアターで観ると、ただでさえ小さい画面のその半分しか映像が映らないので、ちょっと悲しい。

 

 十代の多感な気持ちやバスティアンの年上女性であるクロエへの恋心とクロエの同級生男子への嫉妬などを具体的にに説明するというよりかは役者の表情や行動、暗闇や自然や一日の時間の移り変わりなどのインサートや音などで伝えてくるというやり方で観客に提示してくる。それが効果良く演出されていて観ていて全く飽きない。また随所にホラー映画のようなゾワゾワする演出を入れることで、これは何かただどとではないことが起きるのではないかと期待させ、何か常に死を匂わせているのも見事だ。監督は本作の影響元に『君の名前で僕を呼んで』(ルカ・グァダニーノ)、『ア・ゴースト・ストーリー』(デヴィッド・ロウリー)、『アメリカン・ハニー』(アンドレア・アーノルド)あげていて、本当に本作はそういう影響元と同じような映画なので、ある意味で影響元に対して真摯に影響されている感じがして潔い。

 

 私は観ていて凄く面白いと思ったのだが、話はけっこう危ない。もちろんこれは原作がそうだからだと思うが、いくら十代でも年上の女の子が年下の男の子をたらしこんでいる風に見えるのは痛々しいし、何よりクロエの同級生男子に嫉妬したバスティアンが苦しい質問に答えているとは言え「クロエとヤッた」みたいなことを嘘でも言うのは全くクロエのことを考えていないし、それがのちにクロエと手で抜くシーンへと繋がっていくのも良くない。そもそもこの映画の視線はバスティアンのクロエへの視線と欲望が一方的で、クロエという存在はバスティアンの内面を脅かして守ってあげたいと思わせる存在であるだけだ。もう少しクロエが主体性あるシーンがあるといいんだけど、本作ではクロエの主体性を描いているとはいえず、バスティアンの視線の暴力のみだ。もしかしたらそれがこの映画の肝なのかもしれないが、けっこう倫理的にギリギリを責めていると思う。[※追記 パンフレットを購入し解説を見ていたら、原作でのクロエの役柄はより謎めいていた女性という設定らしく、むしろ映画ではよりクロエに深い人物描写を与えたそうだ。]

 

 ただし本作のラストはそんなクロエへの一方的な視線を断罪するかのようにバスティアンの死が訪れて終わる。これは原作にある内容なのか分からないし、そもそも本作の演出上本当にバスティアンが死んだのか、はたまたクロエが死んだのか、それとも2人とも死んだのかよく分からない、理解しずらいラストを迎えるので(観客に想像させる)、ただのひと夏の淡い恋を描いているよりかは、観客の期待を裏切り、ラストはこれは一体どういうこと誰が死んだのか?と不穏に陥らせることで映画を終える。その潔さには拍手を送りたい。