@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

 

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 (Killers Of The Flower Moon) [2023年アメリカ]

 

1920年代、オクラホマ州オーセージ郡。先住民であるオーセージ族は、石油の発掘によって一夜にして莫大な富を得た。その財産に目をつけた白人たちは彼らを巧みに操り、脅し、ついには殺人にまで手を染める。監督はマーティン・スコセッシ。脚本はマーティン・スコセッシエリック・ロス。原作はデビッド・グラン「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」。出演はレオナルド・ディカプリオ(アーネスト)、ロバート・デ・ニーロ(ウィリアム)、ジェシー・プレモンス(トム)、リリー・グラッドストーン(モリー)ほか。

 

 映画冒頭からラストまでリスクしかとっていない映画で製作されて公開されたことに大変意義がある映画である。オーセージ族へのリスペクトと文化をしっかり描こうとする努力は大変すばらしい。

 

 ものすごく生意気な感想で申し訳ないが、私はもう少しモリーの出番が欲しかったな。アーネストとウィリアムのドロドロした男性同士の関係はマーティン・スコセッシの作家性で納得できるし、そこは面白いのだが(描かれている内容ゆえあまり笑えないが)、男性同士の関係に焦点を当て過ぎていて、肝心の先住民オーセージ族のモリーの描写が薄くなってしまった。外の世界で生きているアーネストと比較してモリーは家の中にいたり、ベッドで苦しんでいるシーンとかのほうが多かった。この映画の内容で普通にモリーの視点から描かれて欲しかったなというのが正直な感想だ。もちろんこの手の映画で先住民の女性がしっかり描かれているのは凄いし、先住民の女性が主役になるのるのが難しいのは分かるけど。

 

 それこそアーネストと夫婦になる前のモリーの方が魅力的に映っていたよね。あれだけ家族や姉妹が立て続けに亡くなって、自分も糖尿病に苦しんでいて、その治療のインスリンの注射に毒が入ってたんだからね。セリフの中でもしきりに言及されていた白砂糖というのがモチーフになっていて、そもそもモリーの糖尿病じたいが入植者が持ち込んだ食文化の影響だし、究極言ってしまば入植者の存在自体が先住民にとっての毒であり白砂糖なんだよね。この映画は愛した男が白砂糖だったみたいな話だ。一見甘い白砂糖も実は体に長期的に悪い影響を及ぼすんだ。

 

 たぶん原作がFBIの記録が元になっているので、映画の作りがその記録を読み上げるみたいなスタイルにもなっていて、とりわけラストがそうなってる。FBIはけっこう映像で記録を残して市民にその存在を示すことにこだわっていたそうなのだが、本作でもラストのあの舞台のシーンなんてFBIのプロパガンダに力を入れていたのが分かる作りになっていた。そしてそれの再現度も凄い。おまけにラストにスコセッシ本人が出てくる。本人が出てきたとき思わず黄色い歓声あげそうになった。このFBIの記録を元に作られた原作を実直に真面目に映画化したから故のモリーの描写なんだろうな。

 

 本作の主人公アーネストはおそらくとんでもない男だが、すごく魅力的に見えてしまうのはディカプリオの役者パワーだ(罪だよ本当に 笑)。仕事しないでモリーの財産で暮らせているくせに、モリーを殺そうとしているし、実際に遠回しにモリーの家族や姉妹を殺しているし。ラストの裁判後にさすがにモリーに見放されて、やっとかと安堵するけど、モリーが主観でアーネストを追い詰めるシーンなどをもうちょっと深彫りして欲しかったんだよ。それなのにラストまでアーネストが良い男に見えるのは何だ...このへんの必要ない感動的な要素は脚本を担当したエリック・ロスの悪いところだと思う(やっぱり『フォレスト・ガンプ/一期一会』みたいな映画の脚本を書く人の倫理観はあてにならない)。スコセッシ単独で脚本書いても良かったのでは。

 

 この映画を前半と後半で分けるとしたら、FBIの捜査が始めるところが後半だと思うが、その後半部分が正直長すぎる。FBIの回想で再現される殺しのシーンなどはFBIが登場する前にすでに観客は見せられているので、2回も見せられるのはさずがにくどいよ。記録映画みたいな側面がある映画なのかな。上映時間が3時間30分くらい映画なのに前半は長く感じなかったのに後半はすごく長く感じた。おそらくこれは前半と後半で意図的に流れを変えたのかな。ただその長すぎた後半の終わりにラストのあの舞台のエピローグが入って急に面白くなるので、やはりあのラストの舞台のシーンを際立たせたかったのかな。

 

 なんかたくさん悪い部分書いてしまったが、それでも凄い画期的な映画なのは確かだ。まず最近の映画であんなにエキストラなど役者が出てくる映画なんてないし、撮影も凄い。特にウィリアムがアーネストのケツを叩いて尋問するあの部屋のデザインや家具の配置はすごいし、それこそキューブリックの映画かと思った。それ以外の当時の再現度も高いと思うし、ぜひ多くの人に見てほしいと思う。