『トリとロキタ』(Tori et Lokita)
アフリカから地中海をわたってベルギーのリエージュにやって来た少年トリと少女ロキタ。偽りの姉弟として生きる2人はどんな時でも一緒で、年上のロキタは社会からトリを守り、しっかり者のトリは時々不安定になるロキタを支えている。10代後半のロキタはビザがないため正規の職に就くことができず、ドラッグの運び屋をして金を稼ぐ。ロキタは偽造ビザを手に入れるため、さらに危険な仕事を始めるが……。
監督はジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ。出演はパブロ・シルズ(トリ)とジョエリー・ムブンドゥ(ロキタ)ほか。
他人が偽りの家族になるというのは『ディーパンの闘い』に似ている。それでも移民としてのロキタの描写が大変リアルだ。ロキタはパニック状態になると発作を起こしてしまい薬を常備しているのだが、こういう移民の人々の心的な症状に焦点を当てた作品は大変珍しい。ビザ申請の難しさだけに焦点をあてるのではなく、移民たちのなかでも見過ごされがちな個人の持病に視点を当てる。またロキタは若く弱い立場に置かれている女性であるため、性被害にあったりと同じ移民でも男女でおかれる立場が異なることもこの映画は示している。(このあたりは大変辛いシーンだ)
これだけ移民のリアルを伝える作品なのだから、ラストはロキタは殺されずに生きていてほしかった。映画冒頭からロキタの辛さを強調しつづけ、ラストに殺されただけだとロキタの主体性みたいなものが無視されている気がする。(どうしても映画として盛り上がりみたいなものを意識したからなのか)