『MEMORY メモリー』(Memory) [2022年アメリカ]
完璧に仕事を遂行する殺し屋として、裏社会で絶大な信頼を得ていた殺し屋のアレックスは、アルツハイマー病の発症により任務の詳細を覚えられなくなってしまい、引退を決意する。これが最後と決めた仕事を引き受けたアレックスだったが、ターゲットが少女であることを知り、契約を破棄。彼の唯一の信念である「子どもだけは守る」を貫くため、アレックスは独自の調査を進める中で、財閥や大富豪を顧客とする巨大な人身売買組織の存在を突き止める。
監督はマーティン・キャンベル。出演はリーアム・ニーソン(アレックス)、ガイ・ピアース、モニカ・ベルッチほか。
アメリカのハードボイルド小説を映画化したような内容であるが、実は複雑なテーマを持った西部劇みたいな内容でもある。しかし『007』シリーズを過去に映画化したことがある監督とは思えないほど、結構色んな所が陳腐である。アクションが見どころというわけでもないし、スリラー要素があるわけでもない。おそらくアルツハイマー型認知症の描き方も非常に悪い。
最初から犯人というか巨悪が提示された状態で、アレックスの個人的な制裁の旅とテキサス州のFBIの捜査が同時進行で進んでいき、あるきっかけで交わり、それが最後にどうなるのかがこの映画の重要なテーマである。アメリカの捜査のルールや法律の壁にぶつかり最後は法を順守するFBIという自警団が、アウトローで法律を守らず自分の正義だけで殺しするアレックスに触発され、巨悪を最終的に法律に捉われない形で暗殺し正義を実行する。
アウトローになる人間たちがこの映画ではアレックスではなく、本来法を実行するはずの警察で、それがこの映画の肝である。正義感溢れる人間がアウトローになるまで描いた映画であり、アレックスは言わば"借りてきたネコ"である。しかしそのテーマを描くには映画全体がつまらない。女性の描かれ方はもっと悪く、ほとんど殺されるか、冷蔵庫に入って登場人物(多くが男性)の復讐してやりたい人物描写の一端を担っているだけの要素になってしまっていて、映画のトーンをだいぶ悪くしていた。