@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『君は行く先を知らない』

 

『君は行く先を知らない』 (Hit the Road) [2021年イラン]

 

 荒涼としたイランの大地を車で旅している4人家族。ケガをした脚にギプスをして後部座席に座る父は、悪態をつきながら、はしゃぐ幼い次男の相手をしている。助手席に座る母はカーステレオから流れる古い歌謡曲に体を揺らし、成人したばかりの長男は運転席で無言でハンドルを握っている。次男が隠し持ってきた携帯電話を道端に捨て去ったり、転倒した自転車レースの選手を乗せたり、余命わずかなペットの犬の世話をしたり、さまざまなことが起こりながらも、一家はやがてトルコ国境近くの高原に到着する。そこで父と母は羊飼いや仮面をつけた男と交渉し、長男は旅人として村に迎えられる。旅の目的を知らない次男は変わらず無邪気にはしゃいでいるが……。監督&脚本はパナー・パナヒ。出演はモハマド・ハッサン・マージュニ(父親)、パンテナ・パナヒハ(母親)、ヤラン・サルラク(次男)、アミン・シミアル(長男)ほか。

 

 まず始めに非常に秀逸な邦題だと思う。ネタバレにならず、それでも観客の創造力を刺激して、鑑賞し終わったころには邦題を考えた人の気持ちと同じ気持ちになれるのだから。また劇中で流れる曲の全てに日本語字幕がついて、これも嬉しい。なぜなら劇中で流れる曲は登場人物の本音が代弁されているからだ。たぶんどこか遠くへ行ってしまう長男に対して、本音では言えない両親の思いが詰まっていて、本音を言うと長男に嫌がられるから、表面的な会話しかしない中で、歌こそ今にも溢れそうな両親の気持ちを代弁している。第2の脚本家だ。

 

 冒頭はこの家族はどこへ行くのか?明言されない状態で進んでいき、次男と観客は同じ立場になる。徐々に少しずつではあるが会話の中で明かされていき、ラストは移民の仲介業者に両親が騙されてしまい、長男は無事に旅立ったのか本当に行きたい場所へ行けたのか、"行く先を知らない"状態をラストでは両親と観客が同じ立場になる。第3の壁を越えてくる面白い映画だ。よくよく考えれば、父親と次男が画面を凝視するシーンがあって、あれは画面越しにいる観客、コチラ側を観ていたのだろう。

 

 派手さやストーリーのピークが特にある映画ではないが、登場人物たちの会話がのちに視覚効果上で本物になったりと、とりとめのないセリフでも映画の構造上では意味のあるものになっていて面白い映画だった。