@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『TAR ター』

 

『TAR ター』(Tar) [2022年アメリカ]


ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラー交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者クリスタの訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

監督&脚本はトッド・フィールド。ケイト・ブランシェット(リディア・ター)、ノネミ・メルナン(フランチェスカ)、ニーナ・ホス(シャロン)、ソフィー・カウナー(オルガ)、マーク・ストロングス(エリオット)ほか。

 

 最初はターのカリスマについての映画かキャンセルカルチャーについての映画かと思っていたが、後半からターの視点を中心に進むスリラーサスペンスみたいな作品になる。しかし脚本は結構後半に進むにつれて雑になり、理解しやすいようになっていない。おそらくその雑な感じがターの乱されていく心象を観客に体験させるようにしているのが狙いなのか。ターが決定的に落ちていく要因になった、自分の代理を務めた男性指揮者への攻撃も、それに至るまでが非常に雑で、あの襲撃のインパクトだけしか残らないのだが、おそらくそれも狙っている。

 

 しかしあれくらいの地位に就いた女性が暴力衝動に駆られるかは疑問だ。というのも権力を誇示してハラスメントするレズビアンの指揮者って、宝くじに当たるよりも存在確率が低そうな人物である。ただでさえレズビアンというのはメディアの中で冷酷な扱いを受けてきて、最近は少しマシになってきたかなと思ったところにこの映画の登場である。みんなレズビアンに恨みでもあるのか?村を焼かれたのか?そんな村なら焼ける価値もないぞ。

 

 ターが娘を虐めた虐めっ子に向けて「私はあの子の父親だぞ」って脅すんだけど、まさにこれは父親、男性の失敗の物語でもある。それを女性指揮者でやったらどうだろうという大変居心地が悪い、というか監督の性格の悪さが伝わってくる作品だ。映画自体の性格が悪いので、私もパソコンという指揮棒を使って最高に性格の悪い感想を書かせていただく。

 

 そもそもターみたいに成功した女性は、もしあのような状態に陥いる前に絶対にパートナーの女性だったり友達の女性に相談しているはずだからだ。女性、とりわけレズビアンの社会性をとにかく軽視している作品だ。女性のことを全く分かってない。分かるふりもしない。

 

 しかしターは非常に仕事には真面目な人間でもある。実家に帰って師匠のバーンスタインの演説を聞いて涙を流すくらいには音楽には真摯である、たとえアジアの僻地でゲームの演奏会の指揮者に落ちぶれてもだ。しかしこの描写も私は問題だと思う。アジアでロケしたのは偉いと思うが、「ターの過去には興味ないけど凄い白人を讃える無知なアジア人」をステレオタイプで描いているし、ゲーム音楽もこの映画ではクラシックよりかは下に位置するらしい。(これが欧米の観客には理解されずらかったらしい、これがタイじゃなくて日本だったら、もっとわかりやすく観客に伝わった気がするが)

 

 一瞬だけ映る性産業に従事するタイ人女性の描き方も悪い。もしかしたらこの映画は音楽とか芸術とかに興味ないのかもしれない、冒頭のターと生徒のバッハとの会話でもなんとなく伝わってきたが、芸術にもキャンセルカルチャーにもレズビアンにも女性にも興味関心のない映画で、となるとこれは本当にケイト・ブランシェットのカリスマ性に浸るだけの映画かもしれない。