@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『EO イーオー』

 

『EO イーオー』 (EO) [2022年ポーランド・イタリア合作]


愁いを帯びたまなざしと溢れる好奇心を持つ灰色のロバ・EOは、心優しい女性カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)と共にサーカスで幸せに暮らしていた。しかしサーカス団を離れることを余儀なくされ、ポーランドからイタリアへと放浪の旅に出る。その道中で遭遇したサッカーチームや若いイタリア人司祭、伯爵未亡人(イザベル・ユペール)らさまざまな善人や悪人との出会いを通し、EOは人間社会の温かさや不条理さを経験していく。

監督はイエジー・スコリモフスキ

 

 6匹のロバの演技に酔いしれる作品だ。なぜなら、というか脚本があるようで、実は全くない作品でもある。人間に興味がないから、こういう作品になったのだろうと想像すべきかか。監督もロバたちは3人目の脚本家だと言っていたように、画面上でも撮影現場でもとにかくロバに頼り切った映画だ。もちろん作り手は自然と動物に畏敬と尊敬の念を抱いて製作したのだが(おそらくアメリカでは作られなさそうな作品で)、それでもロバが人間社会のイザコザに巻き込まれるのを観るのは辛い。どうしてもロバをひどい目にあわせるなと思うし、脚本が薄い作品は好きな作品ではない。

 

 それでもパンフレットまで購入するくらい、私がこの映画に没入したのはひとえにロバの魅力を最大に引き出した撮影と音楽のおかげだ。撮影がとにかく凄くて、なんでもないようなシーンでも意味ありげに見えるし、何より自然の偉大さと冷徹さを伝わってくる。撮影が凄いからこそ、ロバは相当酷使されたのではないかと思ってしまうくらいだ。次に音楽だ。おそらくホラー映画のようなスコアで、EOの不安だったり、開放的な気持ちだったりが伝わってくる。撮影も音楽も4人目の脚本家と言った方がいいだろう。

 

 『イニシェリン島の精霊』でもロバは純粋と弱さの象徴のようになっていたが、この映画でもそうだろう。そんなロバが辛そうに見えるのは、この社会が暴力と強さと卑屈さが支配しているからだろう。変えるべきはロバではなく、社会の方だ。それでも映画の中ではEOはロバなりの抵抗を人間に試みるのだ。ただ弱いだけではない。ロバにはとんでもない魅力があることを再認識させてくれる映画だ。(こういうロバへの視線こそ人間中心主義な考え方だろう)