@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『すべてうまくいきますように』

 

『すべてうまくいきますように』(Tout s'est bien passe)

 フランスの名匠フランソワ・オゾンが、「スイミング・プール」の脚本家エマニュエル・ベルンエイムの自伝的小説を基に、安楽死を望む父親に翻弄される娘の葛藤を描いた人間ドラマ。ユーモアと好奇心にあふれ、生きることを愛してきた85歳の男性アンドレ脳卒中で倒れ身体の自由がきかなくなった彼は、その現実を受け入れられず安楽死を望むように。人生を終わらせるのを手伝ってほしいと頼まれた娘エマニュエルは、父の気が変わることを願いながらも、合法的な安楽死を支援するスイスの協会に連絡する。父はリハビリによって徐々に回復し、生きる喜びを取り戻したように見えたが……。

 2021年、フランス製作。言語はフランス語。上映時間は113分。レイティングはG。日本配給はキノフィルムズ。

 監督&脚本はフランソワ・オゾン。出演はソフィー・マルソーアンドレ・デュソリエ、ジェエラルディン・ペラス、シャーロット・ランプリングほか。

 

 映画の中で父アンドレが本気であるいは冗談まじりに長女のエマニュエルを長男と呼ぶのだけど、まさにこれは長男でありたいという長女の内面を描いた話だ。その長男でいたいという欲は有害な男性らしさで現れるのだけど、エマニュエルは女性だがしっかりその有害性を内面化している(ゴア系の映画が好きでボクシングを趣味にしているあたりがその提示になっている)。これは有害な男性らしさが暴力と不必要な禁欲と我慢に結びついているからで、これに関して言えば女性も内面化することはあるだろう。監督のフランソワ・オゾンはそこに焦点を当てている。

 

 そんなエマニュエルを苦労を知ってか知らずか、父アンドレはとても魅力がある人なのだろう。なにせ映画がアンドレが倒れたところからスタートするため、アンドレが病気になる前の姿はよく分からないのだが、エマニュエルは甲斐甲斐しく面倒をみようとしてできれば尊厳死をしてほしくないと思っているし、別居した妻も未だにアンドレのことを想っているし(アンドレはそうでもないらしいが)、一番アンドレの魅力にひかれているのはアンドレの恋人であるクィアの恋人の彼だろう(名前忘れた)。アンドレはすごく魅力的な力で周囲の人々を支配していたのだろう。(まあ家族なのでどうしたって父親の支配を受けるのは当然といえば当然だが)
 
 本作はもちろん話のほとんどをアンドレ尊厳死について扱っている。しかし現行のフランスの法制度では尊厳死はできないし、合法のスイスでも難しい。何よりスイス行きがバレた時点でフランス警察から事情聴取される、そのフランスの現状に逆らうようにアンドレやエマニュエルや妹(こっちも名前忘れた)の決死の行動をみせるのだが、それがサスペンスみたいな演出になっていて面白かった。映画は安楽死を扱っているが、映画の立場は安楽死してもいいけど実際するのは大変だし家族に迷惑をかけるよという感じである。(私は安楽死は反対だ) このあたりは病菌が原因で安楽死というか自殺する登場人物を描いたアメリカ映画よりかは本作のほうが誠実だと思う。
 
 派手な作品ではないし、あまり観ていて気持ちの良い題材ではないのだが、なぜか不快な気持ちにはならずシュールな気分になったのは、一重に単調でかつ地味な演出のおかげだろう。