『バイオレント・ナイト』(Violent Night)
物欲主義な子どもたちに嫌気がさして久しく、なにかと疲れ気味のサンタクロースは、それでも体に鞭を打ち、良い子にプレゼントを届けるため、トナカイの引くソリに乗ってクリスマスイブの空を駆け回っていた。とある富豪一家の豪邸に降り立ち、煙突から中へ入ったサンタは、金庫にある3億ドルの現金を強奪しようと邸内に潜入していた悪党のスクルージー一味と鉢合わせてしまう。見なかったことにしてその場を去ろうとするも、すぐさま大騒動に発展。子どもたちにプレゼントを届ける能力はあっても戦闘能力はゼロのサンタが、武装集団を相手に孤軍奮闘する。
2022年、アメリカ製作。言語は英語。上映時間は112分。レイティングはR15。日本配給は東宝東和。
監督はトミー・ウィルコラ。脚本はパトリック・ケイシー、ジョシュ・ミラー。出演はデビッド・ハーバー、ジョン・レグイザモ、アレックス・ハッセルほか。
真面目に批評しようというこちら側の気持ちなんて知るかと言わんばかりに、モラルが崩壊している作品だが、「クリスマス映画なんだから肩の力を抜いて見てくれ」という感じか。だとしたら私はあまりこの映画の良い観客ではなかった気がする。
実は『Mr.ノーバティー』等の作品を送り出した87ノースプロダクションの作風が好きじゃない。昨年公開した『ブレット・トレイン』も全く好きになれず。当スタジオのアクションは凄いと思うが、いかせんユーモアとかギャグがどうも好きになれないのだ。(面白いとは思うのだが)
この映画はそのままクリスマス映画の金字塔『ホーム・アローン』を忠実に再現しているというか、劇中でも『ホーム・アローン』に言及するシーンがあるし、何よりリンダが屋根裏で泥棒2人を倒すシーンはまんま『ホーム・アローン』だった。それでも『バイオレント・ナイト』より『ホーム・アローン』が面白いのは人が死なないからだ。(こう考えると『ホーム・アローン』はずいぶん誠実に作っているのだなと再確認させらてた)
サンタクロースが「何とでも呼んでくれ」と言うのだけど、まあ確かにみんなサンタクロースが好きなくせに、サンタクロースが何者なのかはあまり知られていないなと。それでもこの映画がサンタクロースとは何者なのかを教えてくれる映画ではない。設定がユルユルだからだ。
ただしサンタクロースがプレゼント袋から色んなものを出して戦う発想は斬新だと思うのだが、その後ハンマーを持って戦うシーンからは凡庸になってしまう。そのプレゼント袋からダイハードのDVDが出てくるという面白いシーンがあるのだが、これはアメリカではダイハードはクリスマス映画だという認識があり、その意外性を笑いとしてみんな持っている。おそらくこの映画もそのダイハードのクリスマス認識と同じ位置でみんなに理解して欲しいという製作人の狙いだろうか。
クリスマス映画と言えば、家族の絆がテーマになるが、この映画でもそれを追求しており、この映画の家族のテーマは「血は争えない」だろう。もちろんその血は暴力の血であり、暴力から遠かったリンダとトゥルーディーがその「血は争えない」を証明した。