『ボーンズ アンド オール』(Bones and All)
人を食べてしまう衝動を抑えられない18歳の少女マレンは、同じ秘密を抱える青年リーと出会う。自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を初めて見つけた2人は次第にひかれ合うが、同族は絶対に食べないと語る謎の男サリーの出現をきっかけに、危険な逃避行へと身を投じていく。
2022年、アメリカ製作。言語は英語。上映時間は130分。レイティングはR18。日本配給はワーナー・ブラザーズ映画。
監督はルカ・グァダニーノ。出演はテイラー・ラッセル(マレン)、ティモシー・シャラメ(リー)、マーク・ライエンス(サリー)、マイケル・スタールバーグほか。
まず映画の舞台は1980年代なのだが、映画自体は90年代の映画みたいだ。特にガス・ヴァン・サント監督作品らへんを想起したのだが。若い男女が向こう見ずにアメリカを車で横断するというのがどうしても90年代の映画を思い出してしまうのだ。
映画はR18指定で、人を食べる描写が原因だと思うが、そんなにグロいとは思わなかったし、それ以外も特に煽情的な描写は薄かったと思うのでたいへん観やすい。人を食べてしまう秘密がいわゆるカミングアウトできないクィアの人々を想起させるセリフで説明されるのだが、クィアを人を食べてしまう欲望と同等に語るのはあまりうれしくはない。
それ以外はよくある若者の葛藤と家族の確執の話で青春物語であり、恋愛物語である。そうなると恋敵がいるのが映画のセオリーだが、本作のリーとマレンの恋敵はサミーである。これがかなり怖い。普通に喋っているだけで変で怖いってすごいな。新生活を始めたリーとマレンの前にサミーは現れて新居を荒らしに来てそれを無残に殺害するあたり、この映画が一筋縄でいかないところである。
とんでもない話だが、しっかり観ていて楽しいのはルカ・グァダニーノ監督の美意識あってこそだと思う。彼以外が監督したら酷いことになっていたと思う。ルカ・グァダニーノ監督によって救われた映画だと思う。