@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『怪物』

 

『怪物』 [2023年日本]

 

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。監督は是枝裕和。脚本は坂本裕二。音楽は坂本龍一。出演は黒川想矢(麦野湊)、柊木陽太(星川依里)、安藤サクラ(麦野早織)、永山瑛太(保利)、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希角田晃広中村獅童、田中裕子ほか。

 

 一つの出来事に関与した複数の人間のストーリーを追っていく物語展開で黒澤明監督の『羅生門』のような作品である。最近の作品だとリドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』にも似ている。一つの表面だけ見ていると大事なことを見逃してしまうよというテーマを本作は鏡文字のモチーフで上手に表現していた。また表面のものだけに捉われると真実を見逃してしまうというテーマはすごくSNS時代の今を象徴している作品ではある。描かれている倫理観はともかく脚本は優れていると感じたし、音楽はさらに良い。その二つの見せ方が上手だったので是枝監督の中でも良い方の出来だと感じた(編集も自分でやってるらしい)。というか『真実』『ベイビー・ブローカー』が続けて悪かった気がしたが、経験を積んで日本作品に帰ってきたと思えば、無駄じゃなかったかな。(特に『真実』なんて本当に酷かった。本作の方がよほど真実を描けていた)

 

 クィアの子供たちの葛藤と大人の不寛容と無知を描いているので、クィア映画だと思うのだが、監督はカンヌ映画祭の会見で「これはLGBTQ映画ではない」と言い切ってしまい、いわゆる私たちは聞き飽きた"普遍的な物語を強調することでLGBTQの人々の主体性を奪っている"テンプレート表現を繰り返したことで、私のTwitterだけでしかみなかったが(かなり狭い世界!)、かなりその側面を批判されていた(主要な映画メディアでも批判されてればいいのだが) しかも6月はプライド月間のに!!そのためかなり警戒しながらの鑑賞になったが、観終わった率直な感想は、「これはクィア映画ですって言い切った方が良い方向に行くのではないか?もっと届くべき人々に届いたのではないか?勿体無い。」である。まあクィア映画なら本作より優れた作品はたくさんあると思うのだが、それでもたぶん日本でたくさんの観客動員が見込まれる作品だと思うので、クィア映画だと明言して欲しかったというのが本音だ。

 

 大人は最初からわりかし怪物で湊や依里に「男らしくない」とか「結婚して子供を持つまで」とかとにかくプレッシャーを与える。これが凄く嫌な感じで映るんだけど、もう少し今の発言は良くないんだというのを観客に伝わる感じで演出したほうが良かった気がするが、是枝監督作品のなかでようやく男性が描けてる感じはあった。子供の目線から語られる怪物としての大人が最後までどう変化したのかは詳しくは分からないラストで、最後は完全に子供たちに託して終わった。最初の違和感や不協和音や聞こえない言葉にもしっかり伏線回収が、しかしその意味が分かるのは子供たちと観客のみで登場する大人は本当に何も知らない。大人への諦めもあるが、子どもに託しすぎな気もある。「理解できるのは僕らだけ大人や世界なんて知るか」的なTwitterで受けそうな漫画のような話でもあった。