@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『aftersun / アフターサン』


『aftersun / アフターサン』 (Aftersun) [2022年アメリカ]


11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。監督&脚本はシャーロット・ウェルズ。出演はポール・メスカル(カラム)、フランキー・コリオ(ソフィ)ほか。

 

 シャーロット・ウェルズは女性で87年生まれだ。90年代と現代を行ったり来たりする展開(9割ほどは90年代パートで占められている)。父カラムと娘ソフィがトルコで過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていくという映画だ。

 

 リゾート地で過ごしている登場人物に何かあったのは自明なのにハッキリしない感じはマギー・ギレンホール監督の『ロスト・ドーター』に似ているが、子ども時代に撮影したものを編集し見るという作業そのものは今年公開のスティーブン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』に似ているが、父と娘の刹那の旅行を描くというのならソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』に似ている(監督も影響を公言している)。ただし上記挙げた作品の中でも群を抜いて本作がよく出来ていると思う。(ちなみにトルコでのシーンの編集は小津安二郎の影響らしいです)

 

 90年代が舞台なので携帯が出てこないのが結構なポイントだろう。ザラザラした触感で明確な説明は無いが何かずっと不穏な雰囲気が立ちこむ脚本と撮影は見事。子供時代のおぼろげで確信がないけど何となくある記憶をそのまま映像化することに成功している。ラストは余韻を残すことで、なにがあったかは観客に想像させるのだが、非常に理解はしやすいと思う。

 

 父カラムはゲイか病気かメンタルに何か抱えているのだろうか。私は病気で余命が幾ばくも無いので、娘との最後の旅行をしている説を信じているが、カラオケのシーンで歌う曲がどうもカラムとソフィのセクシャリティを暗示しているそうだ。ただしソフィが明確にクィアだか、父もクィアとは限らないので、セクシャリティのところは曖昧だな。父と同じ年になってビデオを再生したのは、自分と親としての苦労を再訪するためか、セクシャリティを隠して生きていた父の苦労を再訪するためか、それともソフィ自身が父と同じく病気かメンタルに何か抱えているのか。

 

 本作のハイライトであるQueen & David Bowieの"Under Pressure"は、カラムの鬱屈した気持ちから解放されたいという気持ちを表現しているが、現代のソフィの視点から見たら「愛なんて古臭い言葉だ、それでも君に勇気を与えてくれる、夜の片隅に生きる人々を気にかける勇気を」という歌詞がソフィの気持ちを代弁しているだろう。見にくかったが大人になったソフィがカラムをハグしている非現実的なシーンが差し込まれていた。

 

 全体体に非常に素晴らしい映画で余韻をポラロイド写真に撮っておきたくなる作品だ。ノスタルジーな気分にさせる映画だが、全く嫌な感じのない。過去を抱きしめて現代を生きていくしかないんだよね。これが長編初監督作品とは思えないほど、完璧だった。これからの作品もぜひチェックしていきたい監督だ。