@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『世界で一番しあわせな食堂』

オリエンタリズム”について本気で考えた2時間

 

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『世界で一番しあわせな食堂』(Master Cheng)

 

フィンランド北部の小さな村。シルカが営む食堂に、上海からやって来た料理人チェンとその息子が訪れる。チェンは恩人を捜していると言うが知る人は誰もおらず、シルカは恩人捜しに協力する代わりに食堂を手伝ってもらうことに。チェンの料理は評判を呼び、食堂は大盛況。シルカや常連客たちと親しくなっていくチェンだったが、観光ビザの期限が迫り、帰国の日が近づいてくる。

 

 『希望のかなた』などを監督したアキ・カウリスマキの弟であるミカ・カウリスマキが監督している本作。兄はあんなにシリアスな作品を作るのに対して、弟のミカはずいぶん楽観的だなと思った。アキは『希望のかなた』でヨーーロッパに来る難民を真摯に描き社会へ皮肉ともとれるメッセージを込めていた。翻ってミカは難民ではなく外国人としてやってくる人を描き、そしてユーモアに沿えてある意味で全く変化しない白人を見事美化した作品を作った。(脚本はミカではない) 正直ミカは本当に白人特権的な作品を作ったと思う。というかこの作品出てくるアジア系のチェンとチェンの振舞いや文化の描き方がだいぶステレオ・タイプでオリエンタリズムに満ちて、そしてアジアにおける国籍取得の良い部分だけを切り取っていたため、2時間ずっと欧米におけるアジア系って所詮こんなものなのかと思っていた。

 

 まずチェンの振舞いである。人捜しする設定なのは別に構わないが、食堂にいる地元の白人に物事を尋ねる際、頭をペコペコいちいち下げるという癖がある描写になつており、これはかなりステレオタイプだと思う。まずチェンは英語が流暢であり、上海に暮らしていた時も外国人の相手には慣れていたようなセリフがある。英語も流暢で外国人にも普段から接していた人が、あんなガチガチなアジア系のステレオタイプみたいな挨拶をするだろうか。いやまずしないだろう。ということは監督はこのステレオタイプのアジア系の挨拶が面白いと思って演出に入れたのである。全くもって人種差別である。しかもチェンが食堂を手伝うきっかけになったのが中国人の団体客が訪れるからだというのが、もうステレオタイプだ。ここでもアジア系は所詮外国人なのだ。

 

 次にチェンが作る上海料理がまるで万能の薬みたいな扱いを受けている描写について。まずチェンの中華がフィンランド人に受け入れられたのは、彼が上海の料理人だからとうのが大きいはずだ。上海は海に面して古くから洋食への傾倒があったはずだ。おそらく同じ中華でも土地が違った中華料理だったら、癖が強くフィンランド人にはおそらく受けないだろう。ここではアジア(中国)の地域における差異は無視され、フィンランド人が食した神秘的なアジアのみが中華(文化)として受け入れられている。心地よいもののみ受け入れる文化交流である。というか料理が生理や病気に効くんなら、みんな苦労してないのよ、本当に。

 

 そして最後に言いたいのが、チェンの結婚ビザ取得への描写だ。まず言いたいのが、中国をはじめアジアの地域は二重国籍を認めていない国が多い。そこで恋仲になり結婚を決意したチェンとシルカには国籍問題とビザ問題が生じる。ということでまずシルカが上海へ向かいそこでチェンと結婚する。それから婚姻関係のまま二重国籍を認めているフィンランドにもどればチェンは婚姻ビザでフィンランドで暮らすことができる。まるで現代のおとぎ話だ。アジアにおいて二重国籍(そして無国籍)が認められないせいで、どれだけ多くの人が苦しんでいるのかを全く知らない人が書いた脚本だ。全くもって好い気なもんだなと思った。こんな描き方チェンが非アジア系だったら絶対にしなかっただろう。所詮ここでもアジア系は"外国人"なのだ。