『フィリップ』 (Filip) [2022年ポーランド]
1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人のフィリップはナチスによる銃撃に遭い、恋人サラや家族を目の前で殺されてしまう。2年後、フィリップは自身をフランス人と偽ってドイツ・フランクフルトの高級ホテルのレストランでウェイターとして働きながら、ナチス将校の夫を戦場に送り出した孤独な妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていた。嘘で塗り固めた生活を送るなか、フィリップは知的な美しいドイツ人リザと出会い恋に落ちるが……。監督はミハウ・クフィェチンスキ。出演はエリック・クルム・Jr.(フィリップ)、ビクトール・ムーテレ(ピエール)、カロリーネ・ハルティヒ(リザ)ほか。
小説版の方は読んだことないので映画のみの感想になる。小説の映画化だが、けっこう疾走感ある作りになっている。ずっと「疲れていたい」と死に憑りつかれていて、ナチスに復讐してやりたいが、組織に属してまで復讐したいと思っていない、一匹狼のフィリップの多面性をとても丁寧に捉えている。セックスシーンなどは予想したよりも全く煽情的な映画ではないが、ホテルの従業員をナチスの将校が何気ない理由で殺していく暴力はとても残酷に描いている。
正直フィリップのナチス兵の妻とセックスして復讐するのと、初めて大切にしたいリザとの差が映画を観るだけだとよく理解できなかったのだが、ラストのフィリップの精一杯の復讐を見るにつけて、本作は障害を越えた恋愛がメインではなく、いわば自分の中にある復讐心を然るべき人々に向けるようになるまでの酷な映画である(本当に無差別に殺す...)。観る前は「そんな恋は芽生えるのか」なんて疑っていたのだが、そりゃ冷静に考えればそうなるよねというラストである。そんな疑いを持っていた原因はこれは配給するときに障害を越えた愛を強調しすぎた日本配給のせいだろう。