@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『マエストロ その音楽と愛と』Netflix

 

『マエストロ その音楽と愛と』 (Maestro) [2023年アメリカ]

 

指揮者で作曲家のレナード・バーンスタインと女優・ピアニストのフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインを描いた伝記ドラマ。監督はブラッドリー・クーパー。出演はブラッドリー・クーパー(レナード・バーンスタイン)、キャリー・マリガン(フェリシア)、マヤ・ホーク、マッド・ボマーほか。

 

 Netflixで製作され配信と言うことだが、注目作だし劇場で公開されるということなので一足先に観てきた。レナード・バーンスタインの音楽が使われているし、ロング・ショットが多用されているのでこれは大きなスクリーンの劇場で観るべき映画だと思った。

 

 ブラッドリー・クーパーの前作『アリー スター誕生』がレディー・ガガを使ったブラッドリー・クーパーの俺様映画であまり好きではなかったのだが、本作は結構好きである。すでに言及したが、撮影が凄いしレナード・バーンスタインの音楽キャリアを総括しているスコアの使い方は豪華である。またブラッドリー・クーパー演じるレナード・バーンスタインは見事としか言いようがなく、ヘビースモーカーな感じとかカリスマ性で周囲の人間を酔わせてしまうあたりもしっかり伝わってくる。特に後半シーンの教会でミサを指揮するシーンなんてレナード・バーンスタイン本人が憑依しているのかと思うくらいである。あれだけ憑依できるくらいなのだから、カズ・ヒロさんによる付け鼻の特殊メイクはする必要あったのかと(特殊メイクと相性の良いアカデミー主演男優賞を狙っているんでしょうけど)。付け鼻を批判されることに反論の余地はないと思う。

 

 妻のフェリシアを演じるキャリー・マリガンも素晴らしいのだが、レナード・バーンスタイン役と比べるとフェリシアがどのくらい凄い人物だったのか分かりにくい(私が知らないだけかもしれない)。映画の後半では病床に伏すシーンも多く、夫のレナードの浮気に苦しんだりと少し可哀そうな役回りだったと思う(事実だとしても)。映画の後半では病気のフェリシアを介護するレナード・バーンスタインの姿を描写するのに時間を割いていたので、かなり夫婦の関係を描いている映画である印象があるし、事実本当にフェリシアへ献身的な愛を捧げていたのだと思う。この辺はバーンスタインの子供たちがけっこう製作に製作にかかわっていた感じを受ける。付け鼻の特殊メイクに批判が起こった時も、すぐにバーンスタインの子供たちが監督擁護のコメントを出していたのも、本作がバーンスタイン家公認の伝記映画であるということを強く感じさせるエピソードである。

 

 レナード・バーンスタインの音楽の情熱やフェリシアへの献身的な姿を映画いている一方で、本作ではあまり描かれていない部分もある。それはレナードのバイセクシャル/ゲイとしての姿だと思う。明確に言うと描かれていたが、けっこうマイルドに大衆受けしやすい姿で描かれていたと言った方が良いかもしれない。レナードのセクシャリティに関してはバーンスタインの子供たちが描いてほしくないと思ったのか、もしくは監督が意図的に描きたくなかったのか。実際レナードの男性関係にフェリシアも悩んでいたようなのだが(本作でも一応レナードに怒りを表明する)、レナードもフェリシアも本作最後のセリフが「Any Question?」だったのを踏まえて考えると、映画的には「夫婦のことは他人には分からないのだから」という曖昧な選択をしたのだと思う(気持ちは分かる)。

 

 また描かれていないというか、今の視点で観ると問題があるのがレナード・バーンスタインが自らのオーケストラや学生たちとも性的な関係を持っていたことだ。もちろん映画でも詳しくは描かれていない。今観るとどう考えてもグルーミングにあたる行為だと思うが、もちろんそれを問題する視線はこの映画には無いし、おそらくこの映画を観てグルーミングについてレナード・バーンスタインを考えることを促してもいない。

 

 今年日本でも公開された『TAR/ター』の主人公であるリディア・ターはレナード・バーンスタインの弟子という設定だったが、この映画のターはグルーミングとセクハラおよびパワハラで失脚していたが、遠回しにあの映画はレナード・バーンスタインのグルーミングを告発している映画でもあったのだろうなと思う。たとえ『TAR/ター』が創作物だったとしても。女性指揮者であるターが失脚して、男性指揮者のレナードがこんなカッコイイ伝記映画が作られるあたり、皮肉だと思う。