@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『VORTEX ヴォルテックス』

 

『VORTEX ヴォルテックス』 (Vortex) [2021年フランス]


心臓に持病を抱える映画評論家の夫と、認知症を患う元精神科医の妻。離れて暮らす息子はそんな両親のことを心配しながらも、金銭の援助を相談するため実家を訪れる。夫は日ごとに悪化していく妻の認知症に悩まされ、ついには日常生活にまで支障をきたすように。やがて、夫婦に人生最期の時が近づいてくる。監督&脚本はギャスパー・ノエ。出演はダリオ・アルジェント(夫)、ランソワーズ・ルブラン(妻)、アレックス・ルッツ(息子)ほか。

 

 観客に衝撃を与えるスタイルで自分の才能の無さを隠している感じのあるギャスパー・ノエ(ラース・フォントリアーもそうだ)の新作だ。冒頭からいきなりエンドロールとクレジットで始まり「これはラストは暗転してすぐに終わらせるパターンで、観客に最後まで強制的に椅子に座らせるパターン」で卑怯だと思ったし(この終わらせ方はぜひ流行らないで欲しい)、そもそもこういう感じの映画をわざわざ観に来る観客は長時間椅子に座ることになれているし、上映中にトイレへ行っても途中からどんな話だったか頭の中で補完出来る人だと思うし、なんなら自分が死にゆっくりと近づいていくことに嫌悪感を抱かない観客が相当数なので、なぜあんなエンドの仕方をとるのか、全く支持できない。また夫と妻の描写を画面を2分割にして映すスタイルでこれは面白いのだが、正直こっちはわざわざ映画館に赴いて大画面(といってもこの映画をかける映画館なんてミニシアターがせいぜいだ)で観たいと思っているのに、あんな2分割した場面をひたすら2時間30分ほど見せられるなんて苦行だったよ、あんな貧乏くさいことしなくていいのに。

 

 と監督の撮影スタイルに文句ばかり言ってしまったが、内容は結構良かったというか、夫婦の関係をよく描けていたと思う。夫の方は映画について本を書いている作家であるが、結構な自由人であることはなんとなく伝わってくる。またつい最近まで妻がいるにもかかわらず、20年近く不倫していて、不倫相手と今は距離を取っているが未だに未練があることも分かる(不倫相手の女性はおそらく妻が認知症になったことが分かり、距離を置いたのだということは何となく伝わってくる)。家の中も映画についての本やDVDがたくさん置いてあり、夫の私有物で家は溢れている。その反面認知症の妻のことはよく分からない。元医者であること以外はよく分からない。この妻と夫の人物描写の濃い、薄いをあえて描き分けることで、この映画の夫婦がいかに夫によって人生が左右されていたが分かる(最後の葬式のシーンで妻の一生を写真で振り返ることで、多くの人が妻にも夫と同じように豊かな人生があったことを再確認させる演出は見事、ここで夫の葬式のシーンが無かったことも付け加えておく)。妻を振り回しておいて、自分は長年不倫をしていたので、ずいぶん身勝手な夫だ。そんな妻を介護したいと思うのは身勝手な罪滅ぼしのようであり、本当に妻のことを思っているのかという疑問も残る(認知症の妻がいるのに、自分の友人を大勢自宅に招くのはおそらくよろしくない)。それに耐えかねてか、認知症になり我慢が効かなくなった妻が夫の創作物を捨ててしまったのはおそらく認知症になる前から夫の散らかし癖にずっと我慢していたんだろうな。またきっと夫の不倫も知っていたのだろう。本作は認知症と持病を抱えた老夫婦の生活を描いているが、いつまでも妻に迷惑をかける夫というどこにでもいる夫婦の普遍性を描いている映画である。今年は『青いカフタンの仕立て屋』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』に続き、夫が妻を介護して苦労するというテーマの映画が多かった気がする(その妻の不調の原因が全部夫なんだよ)。

 

 これはなんとなく映画の世界に生きているギャスパー・ノエ自身が見てきた世界のリアルなのだろうし、夫の芸術活動に振り回される妻もよく見てきたのだろう(実際こういう夫の芸術活動に終始振り回される妻は多いだろう)。これを映画監督のダリオ・アルジェントが演じるってどういうことだろう(笑) ダリオ・アルジェントが出ていることもあり、妻が夫を抗てんかん薬で殺そうかなと計画する描写など、もしかしたら本作はホラー映画なのかもしれない。