@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(Everythig Everywhere All At Once)

カンフーとマルチバース(並行宇宙)の要素を掛け合わせ、生活に追われるごく普通の中年女性が、マルチバースを行き来し、カンフーマスターとなって世界を救うことになる。経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)から来た」という夫のウェイモンドが現れる。混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を背負わせるウェイモンド。そんな“別の宇宙の夫”に言われるがまま、ワケも分からずマルチバース(並行世界)に飛び込んだ彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、全人類の命運をかけた戦いに身を投じることになる。

監督&脚本はダニエルズ(ダニエル・クワンダニエル・シャイナート)。出演はミシェル・ヨー(エヴリン)、キー・ホイ・クァン(ウェイモンド)、ステファニー・スー(ジョイ)、ジェームズ・ホン(ゴンゴン)、ジェイミー・リー・カーティス(ディアドラ)ほか。

 

 もう凄い面白かった。信頼と実績のA24がやってくれました。本作は移民の親世代とその子供たちの価値観の衝突をマルチバースというモチーフで本当に上手く描いている。監督たちは親になり、自分の親の気持ちも子供たちの気持ちの両方が分かるからこそ、この物語を使ったのだそう。特にジョイの「nothing matters」は子どもが抱えそうな絶望だ。それを否定するのではなく受容し互いに気持ちをぶつけ合う。

 

 まあエブリンが決め台詞で放つ「i'm your mother」は救いの言葉でもあり、かつ呪いのような言葉でもある。呪いのように使ったのが同じくA24の『ヘレディタリー/継承』なら、本作は救いの意味で使っている。私はあまり好きなセリフではないし家族愛が強い作品は好きじゃないのだが、まあジョイが徹頭徹尾ずっとエヴリンから認められたいというのが目的だったのを思えば、そのセリフも悪くないのかな。クィアの子どもが全員親に認められなくても自分のままで生きていくみたいな締め方でじゃなくてもいいものね。親に認めて欲しいと思うクィアの子がいてもいいじゃないか。

 

 しかし「i'm your mother」より大切なのはウェイモンドの「Be Kind」だろう。あれだけ壮大なストーリーを見せられると拍子抜けなセリフだが、その拍子抜けが絶望だらけの世界で必要なのだ。この「Be Kind」もこの映画の重要なテーマだし、世評を反映しているともいえる。「Be Kind」でいることも立派な戦いなのだ。このセリフをマルチバースのことを理解していなさそうなウェイモンドが言うのも重要である。ウェイモンドは所謂アジア系男性の有害な男らしさとかステレオタイプを反転した役で画期的である。もともとエブリンの設定が男性だったというくらいだし、ということはウェイモンドの役は女性だったのだろうか。だとしたら反対して大成功だ。

 

 私は子どものときにアメリカ映画の中で初めてアジア系を意識したのがキー・ホイ・クァンで言わば初恋みたいな気持ちを抱いていたので、本作の復活が本当に嬉しい。しかも『マトリックス』みたいな登場の仕方で本当にカッコイイ。いきなりさ「別のユニバースからやってきた夫がかなりのハンサムで...」みたいな白馬に乗った王子様みたいな設定はさすがに夢過ぎるよ。でもありがとう。

 

 低予算のインデペンデント作品ながら全くそれを感じさせない。映画の力と作り手のアイデアを感じる。そりゃほとんど同じロケーションでいくつかのシーンで同じ役者が何度も演じることなどもあるが、それはマルチバースでバースジャンプができるという設定で全く気にならない。撮影も凄いし編集はもっと凄い。アイデアは突拍子もないのに脚本の本筋は伝統的な家族の絆について描くのアメリカ映画なので理解しやすい。インデペンデント作品がこうやって奇抜なアイデアでも撮影と編集の技術が進化したおかげで誰にでもチャンスがあるのは本当に良い時代になったね。(それに出資する製作会社は偉い) こうやってアメリカのアメリカン・ドリームの是の価値観を体現するのが人種的マイノリティなのはアメリカにとっては嬉しいだろうね。だって誰でもチャンスがあって自由に何でもできるってアメリカ人が一番良いってどこかで思っていることだろうし。賞レースなどで選考し投票する人も嬉しいだろうしここ数年で作品賞の中で一番好まれたという理由も納得である。

 

 またこの映画はグルグルの目玉とかラクーンとかとにかく小ネタも多いのでそのへんも調べると面白い。