『チネチッタで会いましょう』 (Il sol dell'avvenire) [2023年イタリア・フランス]
イタリアの映画監督ジャンニは、これまで40年間、プロデューサーの妻に支えられながら映画を制作してきた。チネチッタ撮影所での新作撮影を目前に控え、頭の中はアイデアでいっぱいのジャンニだったが、順調だと思っていたのは本人だけだった。女優は演出に口を出すばかりか政治映画をラブストーリーだと言い出し、娘に紹介されたボーイフレンドは自分ほどの年齢だという。誰にも理解されず、ひとり帰宅して目を覚ますと、今度は妻から別れを切り出されてしまう。さらにプロデューサーが詐欺師であることが発覚し、資金不足で撮影が止まってしまう。監督&脚本はナンニ・モレッティ。出演はナンニ・モレッティ(ジャンニ)、マルゲリータ・ブイ(パオラ)、シルビオ・オルランド(エンニオ)ほか。
ここ数年よく観た映画製作の裏側を描いた作品の中ではけっこうユーモアがある作りになっている。また例にもれず本作も色んな映画へのオマージュで溢れている。とりあえず一番分かりやすいのでフェデリコ・フェリーニの『8 1/2』だけど(劇中で『甘い生活』がそのまま流れるシーンもある)、ジャンニが製作も上手くいかず滅茶苦茶なまま、映画の世界と現実世界の境を曖昧にしたまま、ラストはハンガリー革命でスターリンが倒され人々に自由が訪れたことをパレードで祝福して終わるという大演壇になっている。映画製作を題材にしているが、おそらく監督が伝えたいことは後者のメッセージだと思う。ただ冒頭でジャンニが娘に「イタリアの歌を使って、夫婦の映画を作りたい」と言うのだけど、この映画自体が随所にイタリアの歌とジャンニが若いころに聞いていたポピュラー音楽などが流れて、ラストはジャンニ夫婦が仲良しで終わるので、実はジャンニが娘に言っていた"作りたい映画"の伏線を第4の壁を越えて観客が理解できる作りにもなっていて、この辺は巧みだと思った。
ジャンニの娘が自分と年齢が近い男性と付き合ってるの、風刺というか、あの業界では本当によくあることなんだろうな。というかジャンニもおそらく妻とけっこう年齢が離れている夫婦だろう。そしてジャンニは娘が幼い時から昔の名作映画をみせすぎているせいで、年齢より上の年上趣味みたいになってしまって、それゆえ親ほど年齢が離れている男性と結婚してしまったという皮肉なんだろう。妻も長い間公私ともにおけるパートナーになってしまったので、離婚しづらくなってしまったのもリアルだった。監督&プロデューサーの夫婦ってけっこういるので(最近だと『オッペンハイマー』でアカデミー作品賞とったクリストファー・ノーランとかそうだし)、このあたりの解像度もリアルだ。ただ最後はみんなで大演壇で終わるハッピーエンドみたいな感じで、こういう男の夢に女性が振り回されるみたいな話は好きじゃないなと思った。
というか、本作はあらゆる意味での究極の"俺映画"だと思った。ジャンニが後輩の映画監督の映画現場で暴力シーンについて力説するシーンも、ジャンニが言っていることは正しいと思うが(かなり正しい)、正直言って「ウザい」。ただそのウザさがこの映画のユーモアなんだろう。ジャンニが車の中でアレサ・フランクリンの音楽に変な感じでノッてるシーンもそのまま出しちゃう感じも"俺映画"だなと。つまらない話ではないけど、個人的には好きな話ではないなと。ただ業界とか映画祭では熱狂される感じの映画である。またジャンニの理解者として韓国の映画チームが最後に助け舟を出すのだけど、このへんもヨーロッパ映画界における韓国映画の立ち位置が見えた。あれ90年代だったら日本チームだったなとしみじみ思った(良い風に描かれるかは微妙だけど)。