『私がやりました』 (Madeleine) [2023年フランス]
パリの大豪邸で有名映画プロデューサーが殺害され、新人女優マドレーヌが容疑者として連行された。マドレーヌはプロデューサーに襲われて自分の身を守るために撃ったと供述し、親友である弁護士ポーリーヌとともに法廷に立つ。正当防衛を訴える鮮やかな弁論と感動的なスピーチは裁判官や大衆の心をつかみ、マドレーヌは無罪を勝ち取ったのみならず、悲劇のヒロインとしてスターの座を手に入れる。そんな彼女たちの前にかつての大女優オデットが現れ、プロデューサー殺しの真犯人は自分だと主張する。監督&脚本はフランソワ・オゾン。出演はナディア・テレスキウィッツ(マドレーヌ)、レベッカ・マルデール(ポーリーヌ)、イザベル・ユペール(オデット)ほか。
フランソワ・オゾンは今年大活躍で、今年だけで『すべてうまくいきますように』『苦い涙』『私がやりました』と少し血色の違う作品が次々に日本で公開されている。できれば『苦い涙』が観たいところだが。
1934年の戯曲を脚色したもので、本作以外にもいずれもアメリカ映画だが2回ほど映画化されたことがあるらしい。人が死ぬ話であるが、けっこうゆったりとユーモアある作りになっている。元々死んだ人間が最低の映画プロデューサーだったということもありこちらもシリアスに構える必要もないのだが。1934年の話だが、この時代からキャスティングカウチってあったんだなと思う。
監督の美術や衣装へのこだわりが良いし、ただ道を歩くだけのシーンなのにエキストラとかの細部まで気を使っており、少ししか登場しない映画の撮影シーンとか、自分たちがしたことをそのまま再現する舞台のシーンとか、こういうこだわりは本当に嬉しい。40~50年代のアメリカ映画のような大胆な音楽とか大げさな演技とか意図的にその時代を表現していたと思うし、このこだわりは同じくメロドラマの名手であるトッド・ヘインズを連想するけど、オゾンはそれよりもっとユーモアを足している(まあトッド・ヘインズの映画が笑えないという訳ではないし、むしろ私はトッド・ヘインズの方が好きだし)。
女性同士の少し歪つだけどユーモア溢れる連帯と馬鹿な男たちを出しぬこうとする姿が観ていて爽快だ。強いて言うならポーリーの女性弁護士としての姿とかクィアな感じをもっと追求してくれれば良かったが(まあそれでも女性を描かない/描けない男性監督よりずっとマシなのだが)。あとこういう感じの映画をアメリカ映画で観たいんだよね。