@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『燃ゆる女の肖像』

その女がふり返るとき、ふり返らないとき

 

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『燃ゆる女の肖像』(Portrait of a Lady on Fire)

 

18世紀のフランス。画家のマリアンヌはブルターニュの夫人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を依頼される。だが、エロイーズは結婚を拒み、肖像画を描かれることも拒否していた。画家であることを隠しエロイーズに近づく、マリアンヌ。二人はどんどんお互いの視線にひかれていく...

 

 数年前に『僕の名前はズッキーニ』で私を号泣に追いやった女性監督のセリーヌ・シアマが脚本・監督を務めている。まあとにかくすごいよくできているし、終わりが見えているロマンスであるにも関わらず凄いロマンティックな映画である。役者の演技も全員とても良かった。映画に携わっている人がほとんど女性である。

 

 まずこの映画の凄いところは、孤島が舞台であるが男性がいっさい出てこない。セリフをあてられた男性は二人ぐらいである。エロイーズの見合い相手の男性も、女中のソフィの妊娠相手もでてこない。とにかく男性が不在である。この映画は肖像画を描くという行為を通して女性が女性を見る視線映画であり、その重要性を完全に訴えてきている映画である。この映画をみてしまうと、今後に出てくる男性監督が作る女性の映画が見られる無くなるというか、否応なしにこの映画と比べてしまうくらい、女性の視線に寄った映画であり、それが本当に重要であることを認識させられる。こういう映画を待っていました。(特に今後出てくるレズビアン映画はこの作品と一生比べられることになるくらいである)

 

 歴史上女性が常にみられるという客体であることを牛耳られてきたと思うが、歴史を振り返っても女性の画家は沢山いたわけだ。男たちが邪魔したのだ。この映画で描かれる世界は孤島であるがゆえに小さく見えるが、女性の主体と視線に映画の視点をうつすと、とんでもないくらい大きな世界観を持っている映画だ。

 

 この映画は好きなところがたくさんあるので以下箇条書きしていく。

・まずエロイーズとマリアンヌの関係もさることながら、女中であるソフィとの三人の身分を越えた友情が素晴らしい。だんだん三人が解放されたり、一緒に食事したり、文学を読んで解釈を楽しんだり、カードゲームしたり、とにかく愛おしい。3人とも有限である関係だ分かっていても、素晴らしいのだ。しかも劇中で読まれるギリシャ神話である、オルペウスが妻のエウリュディケーをふり返るお話は、映画のラストシーンで出てくるマリアンヌの絵画のモチーフになる。ここでマリアンヌは絵の中でエロイーズへ振り返るのだが、音楽界のエロイーズはマリアンヌに振り返らない。

 

・祭りのときに島の女性たちが歌っていた映画オリジナルソング、カッコイイ。あの祭りの後マリアンヌとエロイーズの二人が燃え上がるような関係に入るのがとにかく良い。この曲と最後のヴィヴァルディの『四季』の夏を際立たせるために、劇中は一切音楽や音を制限してい演出がより劇中で使われる歌や音楽を際立たせる。素晴らしい。『四季』の夏を最後に持って行ったのは、マリアンヌとエロイーズが恋に落ちたのが燃えがる炎のような夏を思わせるからかな。

 

・ソフィが中絶をするシーンで、まるで出産したシーンのようにとった演出になっている。これは女性にとって昔も今も中絶と出産は同じくらいリスクや心に影響を与えるということを暗示している。それをエロイーズはマリアンヌに絵として描いてほしいと懇願する。この絵を見た人は、果たして中絶しているのか、出産しているのか、分からない。文字通り、女性にとって出産も中絶も同じ命をかけるものであることなのだ。これを絵画と言う芸術で再定義している。(今までの男性が描いた絵画ではきっと出産を美化していたはずだ)

 

・マリアンヌとエロイーズのベッドシーンも大変ロマンティックである。あの脇を女性器にみたてる発想はすごい。セックス・シーンはどれくらい過激化がなぜか話題になるが(特にレズビアン映画の場合はなぜかその土壌に乗ることが多い)、この映画ぐらいがちょうどよい。この映画の目的自体が、男たちに奪われた女性の視線を取り戻すためだし、それで過激なセックス・シーンを入れたら興ざめしてしまうだろう。『キャロル』でもちょうどよいくらいだと思っていたが(あれは手をモチーフにしていた)、『燃ゆる女の肖像』を観た後だと、より一層やはりこの映画のセックス・シーンが一番良い気がした。

 

まあとにかくすごい良い映画だ。女性映画、バンザイ!女性監督、バンザイ!セリーヌ・シアマ、バンザイ!