ノワールというジャンルをようやく好きになれた
『ストレイ・ドッグ』(Destroyer)
ロサンゼルス市警の警察官、エリン・ベルは砂漠地帯に潜伏するギャングを捜査している最中に、凄惨な事件に巻き込まれることになった。それから20年弱が経過した今、ベルは警察官を続けていたが、当時のおぞましい光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。そんなある日、ベルはギャングからの挑発を受けた。ベルはその挑発に敢えて乗ることにし、因縁の相手に決着をつけるべく行動を開始したが、それはトラウマとの闘いでもあった。
話の内容はとにかくシンプルで、最初から犯人が誰か分かる形で進行するので、とても分かりやすいが、映画としてのみせかたがとにかく上手い。物語が終盤と冒頭が繋がったり、エリンの過去と現在の見せ方だったり、LAの街並みや昼夜を人物の感情にのせていたり、意味のないと思われていたスケートボードの少年たちのクダリが最後ちゃんと生かされたり、とにかく凝っている。エリンも一癖二癖ある女性で、完ぺきではないがとても魅力的な人物だ。
また主演のニコール・キッドマンの演技はとても良いし、彼女の恋人で同僚の役であるセバスチャン・スタンも良い。そしてこんな完璧な映画を作った日系女性監督カリン・クサマは凄し、これかの彼女の作品が楽しみである。また伝統的に男の牙城だと勝手に思われていたノワール(ゆえに私はこのジャンルを毛嫌いしていた)を、女性たちが再定義して作るという大変意味のある作品だ。しかし女性が作ると今まで不快だと思っていた描写やジャンルをことごとく克服できているの、いままでどんだけ男性監督主流の映画を観ていたんだと再認識させられる。
↓これは最後のシーンである、事件を片付け走馬灯のように過去を振り返るシーンで、最初に出てきたスケートボードの少年たちがようやく最後に成功するシーンがエリンの死と生に重なるシーンである。完璧である。