『ザ・バイクライダーズ』 (The Bikeriders) [2023年アメリカ]
1965年、シカゴ。不良とは無縁の日々を送っていたキャシーは、ケンカ早くて無口なバイク乗りベニーと出会って5週間で結婚を決める。ベニーは地元の荒くれ者たちを束ねるジョニーの側近でありながら群れることを嫌い、狂気的な一面を持っていた。やがてジョニーの一味は「ヴァンダルズ」というモーターサイクルクラブに発展し、各地に支部ができるほど急速に拡大していく。その結果、クラブ内の治安は悪化し、敵対クラブとの抗争も勃発。暴力とバイクに明け暮れるベニーの危うさにキャシーが不安を覚えるなか、ヴァンダルズで最悪の事態が起こる。監督&脚本はジェフ・ニコルズ。出演はジョディ・カマー(キャシー)、オースティン・バトラー(ベニー)、トム・ハーディ(ジョニー)、マイク・ファイスト(ダニー)、マイケル・シャノン(ジプコ)、ノーマン・リーダス(ソニー)、ボイド・ホルブルック(カル)、デイモン・ヘルマン(ブルーシー)ほか。
実在した写真家であるダニー・ライアンが1965~73年にかけてシカゴのバイクライダーの日常をとらえた同名写真集から着想を得て描いた作品だそう。映画はインタビュー形式で始まり、ダニーがキャシーにインタビューしている体で映画自体も進んでいくので、どこか一歩引いているというか、他の映画でなら魅力的に描かれそうな色っぽい男たちであるジョニーやベニーに対してもどこか俯瞰して見ている感じがある。そのおかげで被害者に見えそうなキャシーという女性が主体的に見えるし、今の価値観でみるとただの迷惑なアウトローであろうジョンやベニーに対しても悪くも良くも見えない、良い塩梅で描くことに成功している。ただバイクライダーズたちのカッコイイ姿を見たかった人は少し拍子抜けすると思うが、そもそもジェフ・ニコルズ監督がただ"カッコイイ”だけのバイクライダーズを描くわけがないので、これで良かったと思うし、それがすごく現代らしい。それもおそらく主人公であるベニーという人物像をあまり深く描かなかったからこそ、その塩梅と保てたと思うので、これは監督の判断が素晴らしいと言うほかない。
どこか俯瞰していても、それでもしっかりジョニーやダニーの関係がホモエロチックに映るシーンなどもあり(暗闇で二人だけで話しているシーンなんてキスしているように見える)、バイク乗りに情熱をかけている姿を魅力的にしっかりとっている。特にラストにキャシーが窓からバイク乗りをやめたベニーを見ているシーンで、そんなベニーの頭の中にはバイクの音が「ブオーン」と響いて映画は終わるんだけど、ああいうのがあるのとないのとで全然違う。良い塩梅の映画とはまさに本作の事だと思う。
あと個人的に笑っちゃうようなシーンも多くて、例えば足を怪我したベニーのお見舞いにジョンが来るのだけど、その時に一ミリもキャシーの方を見ないで背中を向けていたり、ジョンとキャシーでベニーを取り合う姿とかは笑ってしまう。またならず者の集団なので、統治が上手くいかず結局チームがバラバラになったり、新規と古参でいがみ合ったり(新規メンバーがチームの美学を継承するとは限らない)、集団のアレコレがたくさん詰まっているのも面白かった。しかもみんなそんなマッチョじゃないし、動機も不純なままフラフラしている姿も面白く、それを何とか統率するトム・ハーディは大変魅力的だ。『カポネ』で「若いカポネの姿をトム・ハーディで描けばいいのでは」なんて思ったのだが、まさにその願望をこの映画が叶えてくれた。トム・ハーディの話ばかりしたが、本作に出演している役者たちはみんな本当に魅力的で、端っこ役で出ている役者の名前もすみずみ検索した。とても面白い魅力的な映画だった。