@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『山逢いのホテルで』

 

『山逢いのホテルで』 (Laissez-moi) [2023年スイス・フランス・ベルギー]


スイスアルプスをのぞむ小さな町で仕立て屋として働く女性クローディーヌは、障がいのある息子バティストをひとりで育てている。毎週火曜日になると彼女は白いワンピースをまとって山の上のリゾートホテルを訪れ、一人旅の男性客を選んではその場限りの関係を楽しんでいた。もう真剣に恋をすることなどないと思っていたクローディーヌだが、ある男性ミヒャエルとの出会いによって彼女の人生は大きく揺さぶられる。監督はマキシム・ラッパズ。出演はジャンヌ・バリバール(クローディーヌ)、トーマス・サーバッハー(ミヒャエル)ほか。

 

 監督が『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔』から影響を受けて作ったそうだが(その映画はフェミニズムの文脈でよく評価されているのだが、この世界で中年の女性がただひたすら家事をしている姿を追った映画を観たいと思う女性ってあまりいないのではと私は思っている)、ただこの映画のクローディーヌは自分がやっていることを売春だとは思っていないし、お金を貰わないことにプライドを持っている。セックスシーンも3回ほどで煽情的に撮らないように気を付けているし(しっかり色っぽくは撮っている)、何ならけっこう真面目な映画だ。景色も美しい。障害を持っている息子を一人で世話している賢明な中年女性が運命の男性と幸せを手に入れるまでを描き、最後はほろ苦い感じで終わる。

 

 最後にクローディーヌがミヒャエルと一緒に旅立つのかと、昔のメロドラマみたいな終わりかと思わせて、結局ミヒャエルに付いていくのをやめてしまうのがけっこうシビアというか、いきなり現れた魅力的な男性に対して夢が覚めたように幻想が打ち砕かれる感じのラストで、それを表現するモチーフとして映画の中で幾度もなく言及されているダイアナ妃を使っている。ダイアナ妃はまさに世間が抱いているプリンセス願望を体現したような人であるが、そのプリンセスに順応できなかった彼女に訪れたのが死であった。その死を見た世間のほとんどがおそらくプリンセスなんていうのは幻想で、本当はとても辛いことだと知ったと思うのだが、まさにこの映画のクローディーヌがそうだ。もはや誰も辛い状況に迎えに来てくれる王子様の存在を信じていない。

 

 ただクローディーヌがミヒャエルと人生を共にしたいと思わせるには他の男性たちとの差がよく分からなかった(まあ「僕と一緒に付いてきてくれ」という禁句をはなってはいたが)。あらゆる点で90年代ギリギリだなと思うし(ネット時代にクローディーヌのようなことをするのはリスク高いし、あのホテルにも変なレビューとかつけられるだろうし)、クローディーヌが毎週の火曜日だけああいうことをやっていることだって、もっと分かりやすく提示してくれればいいのにななど、疑問に思うところもあった。