@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『バービー』

 

『バービー』 (Barbie) [2023年アメリカ]

 

ピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」。そこに暮らす住民は、皆が「バービー」であり、皆が「ケン」と呼ばれている。そんなバービーランドで、オシャレ好きなバービーは、ピュアなボーイフレンドのケンとともに、完璧でハッピーな毎日を過ごしていた。ところがある日、彼女の身体に異変が起こる。困った彼女は世界の秘密を知る変わり者のバービーに導かれ、ケンとともに人間の世界へと旅に出る。しかしロサンゼルスにたどり着いたバービーとケンは人間たちから好奇の目を向けられ、思わぬトラブルに見舞われてしまう。監督はグレタ・ガーウィグ。脚本はグレタ・ガーウィグノア・バームバック。出演はマーゴット・ロビー(バービー)※本当はマーゴ・ロビーだそう、ライアン・ゴスリング(ケン)、アメリカ・フェレーラ(グロリア)、ケイト・マッキノン(バービー)、マイケル・セラ(アラン)、アリアナ・グリーンブラッド(サーシャ)、イッサ・レイ(バービー)、ウィル・フェレル(マテル社CEO)、シム・リウ(ケン)、スコット・エバンス(ケン)ほか。

 

 グレタ・ガーウィグがやってくれました。大ヒットした大傑作だ。ミーム騒動が残念だけど、それでも大ヒットは一応めでたい(つまるところ私はグレタの大ファンだからね)。獅子座の下に生まれたクリエイターが夏にやってくれました。大筋の話はグレタの過去同様にアイデンティティクライシスを抱えた主人公が立ち直り一人の人間ないし女性になるという物語。(例:レディ・バード、クリスティーン。小さな女性たち、ジョーという作家。バービー、バーバラ)

 

 キラキラしたプラスティックな世界観の中で本当のメッセージを隠すという強い意志のある作品で、よくよく考えれば主題歌がキラキラチェーンのDua Lipaの"Dance The Night"だけど、映画を観終わったときは本当の主題歌はBillie Eilishの"What Was I Made For"であることに気づくのと似ていて、それがそのまま映画の体験とかぶる。ワーナーが配給しているだけあって、主題歌や劇中歌も最高でオリジナルで、洋画好きも洋楽好きも等しく盛り上がる映画で、こんなの本当に久しぶりじゃないか?

 

 バービーランドでケンを始めだ男性が軽視されているのは、現実の世界の女性たちの比喩だと思うが、しかしバービーランドには死と生殖が無いので、セックスがない女性支配がないという、人間社会のある種の答えを提示していた(凄い...)。

 

 定番バービーが現実世界へ行って、持ち主(&創造主)であるグロリアと娘サーシャに出会いに行くことで人生を修正しに行くのは『フランケンシュタイン』だ。その前に前日世界へ行く前に変てこバービーにどっちかを選べと迫られるのは『マトリックス』だ。またマテル社で究極の創造主であるルースに出会い、色々あって定番バービーに人形以外の現実世界として生きていく苦労や喜びを与える。結構な人間社会賛歌だった。おそらくこのルースは神であるが、完璧でないにしろバーバラという新しい人間として生きていくことを与えるあたりは、非常に旧約聖書の話で、これは『レディ・バード』でもカソリックの環境で生きていたことを扱っていたが、これはグレタの作家性だろう。ルースとグロリアはバービーにとっては母でもあり、この母と娘の関係もやはりグレタの作家性だろう。監督の作家性がたくさん入っている作品がこんなに大ヒットしたのは喜ばしいことだろう。

 

 本作で諷刺されているマテル社のCEOが全員男性であることと、バービーの購入客である女の子たちのことを全く考えていないところは、どうも現実社会で起きたバーベンハイマーのミーム騒動を思い出される。バービーというグレタの作家性溢れる作品の意図を理解せず、バーベンハイマーのミームに安易に乗ってしまった宣伝担当はまさに本作で諷刺されている存在だろう。大手だと作り手は全く宣伝に関わらないそうです。

 

 素朴で分かりやすいフェミニズムだが(ホワイト・フェミニズムというよりポップ・フェミニズムだ)、それだからこんなにも大衆に受け入れらたと思うが(大前提にこの映画は最高に笑える)、ただしこの映画を観て不快になった日本のミソジニストもいると思うが、まあ「これくらいで怒って生ぬるいな」と思うと同時に「しっかりメッセージ受け取れてるじゃん」と感心した。

 

 『2001年宇宙の旅』の冒頭オマージュも面白くて、今までずっと赤ちゃんの人形しかなかったことから、それ以外の人形が現れたことの革新性を本当に上手に表現していた。またラストのバービーが人間になったオチもたぶん『2001年宇宙の旅』のオマージュだ。性器を持たないバービーが婦人科へ行くラストも良くて、これはバービーをトランスとして捉える人はどんな人でも女性なんだというメッセージであると捉えていた人もいて、とても良い解釈だと思った。またこの婦人科へ行くのはリプロダクティブヘルスライツへのメッセージも含んでいるのだろう。

 

 また一番好きなオマージュはケンの"I'm Just Ken"のパフォーマンスでこれは『雨に唄えば』へのオマージュだと思うが、私もこのシーン大好きで、グレタと同じものを好きで嬉しい限りだ。私はこの映画を2回観たが、2回とも観客から笑いが起こっていて、とても良い劇場体験ができた。