『エゴイスト』
エッセイスト・高山真の自伝的小説「エゴイスト」を映画化。14歳の時に母を亡くした浩輔は、田舎町でゲイである本当の自分を押し殺して思春期を過ごし、現在は東京でファッション誌の編集者として働きつつ自由気ままな生活を送っている。そんなある日、浩輔は母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太と出会う。浩輔と龍太はひかれ合い、時には龍太の母も交えて満ち足りた時間を過ごしていく。母に寄り添う龍太の姿に、自身の亡き母への思いを重ねる浩輔。しかし2人でドライブの約束をしていた日、龍太はなぜか現れず……。
2023年、日本製作。言語は日本語。上映時間は120分。レイティングはR15。日本配給は東京テアトル。
監督は松永大司。鈴木亮平(浩輔)、宮沢永魚(龍太)、阿川佐和子、他出演。
非常に繊細で緻密な恋愛映画である。それなのに浩輔の龍太を愛していたい(独占していたい)というエゴな提案が結果的に龍太を過剰労働へ追い込み間接的な理由で死を招いてしまう。龍太を亡くして自分の申し出が実エゴイストだったのかを認識し謝りたい時にはもう龍太はいない。贖罪のように龍太の母の世話をし続ける浩輔。恋愛映画ではあるがとても悲しい展開である。
正直日本映画の中で数少ないクィアを正面からしっかりと当事者意識を投影して作っている意欲作で(少なくとも萌えや推しを狙っていない)、しかもこれに伴う宣伝活動の中でも役者がしっかりと日本の同性婚への取り組みについて意見を言ってくれていたし、何より所謂多くの役者がクィアを演じる時の「私たちと変わらない、愛する気持ちは異性愛者も同姓愛者も同じなんです」的な紋切り型の役者トークをしっかりと避けてくれていた。(研修みたいなのをしっかりと受けたらしい)
地味な映画だが、それは敢えて狙ったもので、じっくりと浩輔と龍太の関係に焦点を当てている。そこは大変素晴らしい。しかし私はこの映画の"正しい"観客ではなかった。本作は映画冒頭から後半に至るまで、ほとんどのシーンを手持ちカメラで撮っており終始画面がブレている。これが見事に集中を切らしてくる。二人の繊細なやり取りが魅力の映画ならこういう撮り方をするべきではないのではないか。それとも私以外の世の中の人は手ブレ演出もなんなくこなして普通に鑑賞できるのか。とにかく私はこの手ブレ演出が許せなかった。