自分の知識不足を実感させる作りになっている
『アンテベラム』(Antebellum)
人気作家でもあるヴェロニカは、博士号を持つ社会学者としての顔も持ち、やさしい夫と幼い娘と幸せな毎日を送っていた。しかし、ある日、ニューオーリンズでの講演会を成功させ、友人たちとのディナーを楽しんだ直後、彼女の輝かしい日常は、矛盾をはらんだ悪夢の世界へと反転する。一方、アメリカ南部の広大なプランテーションの綿花畑で過酷な重労働を強いられている女性エデンは、ある悲劇をきっかけに仲間とともに脱走計画を実行するが……。
作品選びが秀逸でお馴染みのジャネール・モネイの新作。南北戦争下のアメリカと現代のアメリカを交互に見せて昔の記憶が現代に迫ってきているのかと見せかけ実は同じ時期に起きていたというプロットをスマホの音で演出する秀逸な映画だ。
南北戦争下のアメリカ南部のプランテーションを表現しているが、実は当時の奴隷制に詳し人が見ると、時代考証が正しくないらしく、このプランテーション演出が嘘であることにすぐに気付くらしいのですが、私は全くの無知で普通に演出に魅了されました。そして同時に自分の無知を自覚させられた。
最後にジャネールがプランテーションを抜け出すシーンで、ずっと虐待していた白人奴隷主を殺して燃やした後松明をもって歩くシーン、めちゃくちゃアイコニックなシーンだ。そしてその後プランテーションから馬を使って逃げていくヴェロニカを奴隷主の娘が追いかけた後、彼女をヴェロニカが「同じ女のくせに」とぶん殴るシーンはアメリカの白人家父長世界に大変問題提起している。白人女性は時にアメリカの家父長世界を後押ししていた歴史もあるので。
本作はジャンルが混じっており、ホラーやサスペンス要素もある。しかしコメディ心も忘れていない。特にヴェロニカの親友であるドーンは大変面白いシスターだ(笑)