本当の名前で僕を呼んで...
『クーリエ 最高機密の運び屋』(The Courler)
ベネディクト・カンバーバッチが主演を務め、キューバ危機の舞台裏で繰り広げられた実話を基に、核戦争を回避するべく奔走する男たちの葛藤と決断をスリリングに描いたスパイサスペンス。1962年10月、アメリカとソ連の対立は頂点に達し、キューバ危機が勃発。英国人セールスマンのグレヴィル・ウィンは、スパイの経験など一切ないにも関わらず、CIAとMI6の依頼を受けてモスクワへと飛ぶ。そこで彼は、国に背いたGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の高官ペンコフスキーとの接触を重ね、機密情報を西側へと運び続けるが……。
練れに練られた脚本とスリリングな場面展開が続いて全く飽きずに最後まで観ることができる。それに加えて役者陣が素晴らしい。特にアレックス(オルガ)演じるメラーブ・ミミッゼが良い。
カンバーバッチ演じるグレヴィルは典型的なビジネスマンで話術とお世辞と交渉術にたけているが、他にもアメリカのスパイのアレックスやCIAの報道官であるヘレンも話術とコミュニケーション能力にたけている。これは普通のビジネスも政治も諜報活動も同じ能力を必要とし、実はそんなに変わりのないことをしているのだと思う。また特筆すべきはヘレンの情に訴えるコミュニケーションである。こういう政治やスパイというシビアな場面で相手の情に訴えるコミュニケーションはあまり功はそうさないと考えられていると思うが、アレックスもグレヴィルもヘレンの情に訴えるコミュニケーションで心を動かされている。この映画はそういう情に訴えるコミュニケーションが平和を導くことを肯定的に描いている。
あとアレックスとグレヴィルの関係が非常にホモ・エロチックに描かれている。まずグレヴィルとアレックスが初めてモスクワで出会ってディナーをするシーンでアレックスがグレヴィルをなめまわすように見るのだが、まるで恋しているかのように誘っている感じで見るのだ。またアレックスがグレヴィルと出会うときだけ、アレックスと本当の名前で呼んでくれとか、ひそひそと話すときは人目を避けて大きな音に隠れながら話している。これって周囲にばれることを恐れているゲイ・カップルのようだし、おそらくそれを狙って演出している。しまいには最後の方でグレヴィルがアレックスにタバコを吸うように促すシーンで、さりげなくアレックスはグレヴィルの手に触れてしまう。この二人の関係はめちゃくちゃホモ・エロチックであり、おそらくこの映画を非常に魅力的にしている。