本当のクリスマスの精神を体現した映画
正直言うと脚本にムラがあって映画としてかなり雑な作りになっていてポール作品の中ではワーストに位置してしまう可能性もあるが(実際レビューは悪い...)、私はクリスマスの精神をしっかりと体現したメッセージが含まれた作品だったと思うし、年末に観る娯楽映画として申し分ないと思う。『ラブ・アクチュアリー』のスタッフはいつも強引にハッピーエンドに持っていき最後は幸せな気分に持っていくのが上手だし、ポール監督の色というよりかは、エマ・トンプソンや『ラブ・アクチュアリー』スタッフ色が強い作品だった。年に2回もポール・フェイグ監督の作品を観れるなんて幸せ以外の何物でもないが、今作品も私のお気に入り作品になってくれた。
映画全体がかなり謎な展開でスローペースで進むところをジョージ・マイケルとワム!の曲が助ける感じになっているが、映画最大のオチが分かるところでちゃんと『ラスト・クリスマス』の意味が分かるようになっているのがすごく良かった。ちゃんと感動できるし、同じUKミュージャンの曲を使用して映画を作った『イエスタディ』より何倍も『ラスト・クリスマス』のほうが良い映画だ。(『ボヘミアン・ラプソディー』より『ロケット・マン』のほうが優れていたように。)
映画の本筋以外の描写も素晴らしく、まずエミリア・クラーク演じる主人公ケイトの相手がアジア系のヘンリー・ゴールディングだったのが良い。こういう大手スタジオが手掛けるラブコメで主人公の相手役がアジア系男性ってかなり画期的ではないだろうか。またヘンリー・ゴールディングの役柄も往年の銀幕スターのケリー・グラントみたいでカッコイイ。ポール監督の『シンプル・フェイバー』でもホラー作品に出演していたケリー・グラントを意識した役どころだったらしいが、『ラスト・クリスマス』ではロマンス映画に出ていたケリー・グラントを意識した役どころになっていた気がする。(『ラスト・クリスマス』のヘンリーは少しマジカル○○感あるが...) アジア系もたくさん出演する。(実際のロンドンにはアジア系がたくさん存在しているが) またケイト自身も移民2世だし姉はレズビアンで恋人がしっかりといるが親に打ち明けずにいて、最後は家族で仲直りし、ケイトは自分自身の移民というアイデンティティを受け入れて、バスの中でヘイト・スピーチにあった移民にしっかりと声をかけ助けるようにまでなる。主人公ケイトが不器用だけどそれについて劣等感を持つわけでもなしで別の才能に秀でいて自分に自信があってそしてセックス・ポジティブなところはいつもの監督の女性像である。ホームレスのために寄付を全力で募ったり、その中で自分の中にある偏見にも気づいたりする。
バスの中の移民の描写やホームレスの寄付活動描写など映画としては少しやりすぎな気がするが(私はもっとこういうシーンは必要だと思うが)、この映画が日本で公開したタイミングでイギリスでは保守党が大勝利をおさめてEU離脱がそろそろ本格的に進みそうだし、レイシストでセクシストなポリス・ジョンソンが首相になってしまったいまだからこそこの映画のメッセージが必要なのだ。難民やモームレスに手を差し伸べるべきだとハッキリ提示し本当のクリスマスの精神を体現したこの映画は立派なクリスマス映画だ。恋愛が下地になくとも立派なクリスマス映画だ。
ありがとう。