
『関心領域』 (The Zone Of Interest) [2023年アメリカ・イギリス・ポーランド]
タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。監督はジョナサン・グレイザー。出演はクリスティアン・フリーデル(ルドルフ・ヘフ)、サンドラ・ヒュラー(ヘートヴィヒ・ヘフ)ほか。
固定カメラで画面の中央が一番奥になるように、とても細かく演出されている。一家の生活を覗き見ているような感じで、観客は監視カメラの映像を繋ぎ合わせたのを見ている気分になる。それゆえあのリンゴを土に埋めていた少女の姿は暗視みたいなのだろう。斬新だと思うが、観客はとても遠い所に置かれたまま初めから終わりまでいくので、正直切り離された、取り残された気分になる。それが良いと思う人もいるかもしれないが、扱っている題材が題材なだけに私はあまり良くないと思った。
ラストの方で現代のアウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館の映像に切り替わるのだが、それをやるくらいならドキュメンタリー映画を観たほうが良いのではとすら。ただその現代パートでもヘフ家パートでも誰かが常に掃除をしていて、あれは洗い流すことの意味の変遷を上手に表現していると感じた。そもそも一つの民族を滅ぼすときに民族浄化(ethnic cleaning)と言うくらいだし、あれは洗い流しても歴史は消えないのだという意味なんだろうな。
ヘフ家の一挙一動を見ていれば分かるが、本作は一貫して自分が大量虐殺に加担しているのをしっかり理解している人たちの映画だ。もちろん悪の凡庸さではない。とても厳しいがあの街の人間も塀の中で何が行われているか知っているのだ。とりわけ妻のヘートヴィヒは家庭に結びついている分、一つ一つのセリフが夫のルドルフより残酷に観客に響く。これは現代人が見ると圧倒的に虐殺に兵士として加担しているよりも、ヘートヴィヒのように家庭人として家族と関わっている人の方が圧倒的に多いからで、製作者も意図して演出しているはず。
現在でも戦争や侵略の話になると、女性と子どもの被害を強調して語られるが、本作ではその女性と子どもが積極的に残虐性に加担している。あまり批評に触れられていないが、私はヘフ家の子供たちの遊びに残虐性が出ていると思ったし、何ならそれが一番怖かった。子供たちだし、あの塀の中を見ていない訳がないし、親に黙って必ず隠れて見ているはずだ。そしてそれを違和感なく受け入れている。特に長男と次男は、将来父と同じくSSになる人間だし、子どもの時からその残虐性に慣れてしまっている。ヘートヴィヒの母がこの家の違和感に気付き早々に逃げていくことで、余計にあのヘフ家の異常性が浮き彫りになる。個人的には好きではないが、優れていてとても怖い映画であったと思う。