同性愛の映画誕生を純粋に喜んではいけない
『アンモナイトの目覚め』(Ammonite)
1840年代、イングランドのライム・レジス。古生物学者のメアリー・アニングは同地で老母と暮らしていた。若い頃に博した名声はもはや忘れ去られつつある中、メアリーは観光客にありふれた化石を売って生計を立てていた。そんなある日、地質学者のロデリック・マーチソンがメアリーの元にやってきて、「ヨーロッパ旅行にでている間、妻のシャーロットの面倒を見てやってくれませんか」と頼み込んできた。化石発掘に専念したかったメアリーだったが、高額な報酬に目がくらみ、つい引き受けてしまった。
当初、異なる価値観で生きてきた2人は衝突するばかりだった。しかし、お互いに孤独を抱えていることを知り、徐々にその距離は縮まっていった。そして、2人の間には恋愛感情が芽生えるのだった。
実在した地質学者のメアリーとシャーロットがモデルである。まずケイト・ウィンスレットとシャーシァ・ローナンの演技は申し分ないのだが、なにぶん脚本が少し強引ではある。まずメアリーとシャロットが恋愛関係に至るまでの過程が少し強引である。またシャーロットは実在の人物だが、本当はメアリーより年上らしく、またかなり社交的で夫が学者として有名になる原動力を与えたくらい溌溂した人らしく、またシャーロット自身も著名な学者だそうだったらしく、それなのに映画のシャーロットはあまり主体性を失っている。どうせなら史実通りの性格の持ち主として描かれる二人の恋愛の方が見たかったし、古い時代の中年の女性同士の恋愛を描く方が映画としてかなり意味があったように思える。
あとセックスに発展するまでよくない。初めてまずキスしてから急にあのセックスは無いだろう...『燃ゆる女の肖像』を観てしまったあとだけ余計粗が分かってしまう。またメアリーは実際同性愛者だったかどうかは良く分かっておらず、同性愛は脚色だそう。私も同性愛者かどうか分からない史実の人物に同性愛者として脚本を与えてしまうのは良くないのでないと思う。だったら労働者階級の地質学者としてのメアリーの生き方とそれに影響を受けるシャーロットの中年女性通しの友情に焦点を当てた作品を作ればよかったのにと思う。