
『このろくでもない世界で』 (Hopeless) [2023年韓国]
とある地方の暴力がはびこる町。貧しい家庭で育った18歳のヨンギュは、継父からの暴力に耐える日々を過ごしていた。そんな彼にとって、義理の妹ハヤンと悪態をつきながら一緒にハンバーガーを食べる時間が唯一の救いだった。しかしある日、ヨンギュはハヤンを守るために暴力沙汰を起こして高校を停学になり、示談金を請求されてしまう。生き抜く術を持たないヨンギュは、地元の犯罪組織のリーダーであるチゴンを頼り、彼のもとで働くことに。憧れのチゴンに徐々に認められていくヨンギュだったが、ある日、組織の非情な掟に背いてしまい……。監督&脚本はキム・チャンフン。出演はソン・ジュンギ(チゴン)、ホン・サビン(ヨンギュ)、キム・ヒョンソ(ハヤン)、キム・ジョンス、チョン・マンシクほか。
冒頭からヨンギュが砂利を弄っている通り、あの砂利から這い上がるまでに、とにかく湿っぽい血が流れ続ける映画。たくさん血がブシュッと流れる映画より、こういう血が染み出てくる映画の方が「痛い」と感じるから不思議だよね。全体的にとても暗い韓国流ノワールで、同時に韓国流のBL映画でもある。韓国映画が得意としているジャンルと日本のシネフィルが韓国映画に求めるモノが合致している。BLと書いたが、男たちはペニスの代わりにナイフを互いにつきたてる(ヨンギュがチゴンを刺したときは、もう完全に性行為の終わり"射精"だったのだが)。しめっぽいBLで救いの無いノワールだが、私はナイフの代わりにペニスを互いに突き立てあっている男たちの方が好きだな。そっちのほうを映画として観たい。映画は凄く面白かったけど。
チゴンがお酒を飲まない人というだけで、ヨンギュの信頼を勝ち取るというのも凄くよく出来ている。またヨンギュにとって素性のよく分からないヤクザより、家庭内暴力を振るってくる義父のほうが怖いという、ああいうのよく分かっているなと。願わくばもうちょっとチゴンとヨンギュが会話するシーンがあると良いなと思ったけど、ワガママなお願いなのは分かっている。チゴン役のソン・ジュンギが魅力的で、チョン・ウソンに顔が似ているのも個人的にポイント高い。
キム・ジョンスがまた嫌な役で本作に出演しているが、今月観た『密輸 1970』とほぼ同じ役である。彼が出てきたとき、不謹慎だけど笑っちゃった。『密輸 1970』のあの地元のチンピラたちはどうやって生きてるんだ、彼らの人生が気になったという疑問に綺麗に答えている映画。みんな『密輸 1970』の方がエンタメに振り切っていて好きだと思うが、私は断然こっちのほうが好きだ。
男たちがろくでもない世界で生きている一方で、真面目に生きているのは女たちだ。それにお金を取り立てらてもプライドは捨てないあの男性やバイト先の店長もそうだ。彼らにヨンギュが最終的に魅せられていき。カタギの世界に戻りたいと思わせるのも巧みだなと思った。本当に真面目に生きている人たちはどういう人たちなのかを見せるのも上手い映画である。
そんな真面目に生きている人たちを見せる一方で、本作は警察が全く出てこない。というか本作では、巨悪は倒されない。その代わりにヨンギュの母親が殺され、弱者は踏みつけられる。ヨンギュが本当に倒すべき相手(キム・ジョンスが演じているボス、彼らを利用している政治家、義父)は倒れない。大変辛い。利用されている者同士がナイフを突きつけ合うので本当にやるせない。今年観た韓国映画の『ビニールハウス』といい新世代の韓国の映画監督は現実主義だな。韓国映画と言えば巨悪を許さないと思っていた私には、ちょっと悲しいな。今までの韓国映画への反動なのかな。ただ本作の場合はヨンギュとハヤンの若いまだ未来のある二人がこのろくでもない世界から抜け出すみたいなのがテーマだから、こういう作りなのも理解できる。