
『国境ナイトクルージング』 (熱冬 The Breaking Ice) [2023年中国・シンガポール]
友人の結婚式に出席するため冬の延吉にやって来た青年ハオフォンは、上海へ戻る翌朝のフライトまでの暇つぶしに観光ツアーに参加した際に、スマートフォンを紛失してしまう。観光ガイドの女性ナナはお詫びとしてハオフォンを夜の延吉に連れ出し、男友達シャオも合流して飲み会で盛り上がる。翌朝、寝過ごしたハオフォンはフライトを逃し、シャオの提案により3人でバイクに乗って国境クルージングに出かける。監督はアンソニー・チェン。出演はチョウ・ドンユイ(ナナ)、リウ・ハオラン(ハオフォン)、チュー・チューシャオ(シャオ)ほか。
邦題にクルージングって付いているように本当に観光映画みたいだった。本当に名所めぐりみたいなことをずっとしている映画で、それ自体は綺麗だし、ナナが「延吉も都会でしょ」というように中国各地の開発の進み具合には目を見張るものがあるなと思った。たぶん日本では比にならないくらい地方都市が発展していると思う。ただその発展に疲れてしまった若者たちの映画だ。若者の虚無や自殺願望や諦めや何かになりたいなどの、若者の普遍を描いている(これがピンとこない人もいると思う)。
バブル的な発展に疲れた中国の若者の声にならない叫びが詰まったような映画で、先月観た『西湖畔に生きる』と同じテーマがある映画だと思う。面白いのが、本作でハオファンが人間になりたいトラとクマの神話を話すのだが、『西湖畔に生きる』では疲弊した主人公がトラに出会い、『国境ナイトクルージング』ではハオファン、ナナ、シャオの3人がクマに遭遇する。神話の中でクマは人間になれたのだが、そのクマと三人が遭遇できたのは象徴的と言うか、『国境ナイトクルージング』は疲弊し虚無と諦めを抱えていた三人が、それぞれ真実の愛に出会い、1人は旅立ち、1人は家族に向き合い、1人は自分に向き合えるように、ハッピーエンドだったが、神話の中で人間になれなかったトラに出会った『西湖畔に生きる』ではあまり良いラストではなかった(それ以外にも色々問題のある映画だと思ったが)。『国境ナイトクルージング』を観てようやく『西湖畔に生きる』で描きたかったことが理解できた気がする。
2人の男性の間で揺れる1人の女性という、古典的な女性映画の側面もある。たださすがにナナが足の傷を男性に隠していて、それを受け入れてくれたハオファンとセックスするとか、セックス中にナナが泣くシーンとか、「いいかげんにしてくれ、古臭いな」と思うし、もっとやりようがあるだろうと思うところもある。ただ食事とか水分摂取とかを頻繁に描いていて、ここはすごく面白い。これは三人の満たされない状態、心が乾いているのが、氷が解けていくように満たされていっているのを描いているんだろうな。