『The Son/息子』(The Son)
家族とともに充実した日々を過ごしていた弁護士ピーターは、前妻ケイトから、彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと相談される。ニコラスは心に闇を抱えて絶望の淵におり、ピーターのもとに引っ越したいと懇願する。息子を受け入れて一緒に暮らし始めるピーターだったが、親子の心の距離はなかなか埋まらず……。
監督&脚本はフロリアン・ゼレール。出演はヒュー・ジャックマン(ピーター)、ゼン・マクグラス(ニコラス)、ローラ・ダーン(ケイト)、バネッサ・カービー(ベス)、アンソニー・ホプキンス(アンソニー)ほか。
フロリアン・ゼレール監督の『ファーザー』に続く「家族3部作」の2作目で、監督本人の戯曲『Le Fils 息子』を原作としているそうだ。戯曲がもととなっているので、あんまり場面展開がなさそうに見えるが、海のシーンなどピーターとニコラスの過去を回想するシーンなど動きのある場面もある。
前作と違い少し理解しずらいのが、若者の不安というかメンタルヘルスとかそういうものである。これが映像作品と相性がどうも悪いようだ。しかし同じく若者の親や将来への期待と不安と絶望とメンタルヘルスが題材になっている『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はとてもよく出来ていたので、おそらく監督としての力量不足なのかもしれない。もしくは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のマルチユニバースというモチーフがうまく作用しただけかもしれない。どちらにせよ難しいテーマなので『The Son/息子』はよく出来ている方だと思う。
ピーターは嫌いな父アンソニーの二の舞を踏まないように努力するのだが、結局無意識のうちにニコラスにプレッシャーをかけてしまっており、この有毒な男らしさと父親らしさが連鎖的になっているというのはアメリカの過程における家父長制を象徴しているのだと思う。またピーターは護衛用だと言って拳銃を隠れて所持しており、それをニコラスに指摘されてもあたふたするのだけど、これは世代間による拳銃所持についての意識の違いだろう。学校やストリートでの銃乱射事件がもはや生活の一部になってしまった世代のニコラスにとって自宅にたとえ護衛用の拳銃でも所持しているという状態は非常に心の健康によろしくない。そんな拳銃で自殺するのも"剣を取るものは剣によって滅ぶ"みたいな考えを映しているのと同時に、ニコラス世代の若者をネグレクトするピーター世代への皮肉のようにも見える。
まあもう少し世代間格差をニコラスの目線で描いてほしいなと思ったので、その辺は家族3部作の3作目に期待である。