@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『あなたと過ごした日に』

 

『あなたと過ごした日に』

 

麻薬カルテルが台頭する1970年代コロンビアの都市メデジンを舞台に、実在の公衆衛生専門家エクトル・アバド・ゴメス博士の波乱に満ちた半生を息子の視点から描いた伝記映画。著名な作家である息子エクトル・アバド・ファシオリンセの回顧録をもと。公衆衛生を専門とする大学教授エクトル・アバド・ゴメス博士の家庭は、寛容と愛の心を育む教育により、活気と創造性に溢れていた。5姉妹に囲まれた唯一の男の子で父と同じ名を持つエクトルも、深い愛情を注がれて育つ。そんな中、姉妹の1人が恐ろしい病に冒されてしまう。悲しみと怒りに突き動かされたアバド・ゴメス博士は政治活動にのめり込み、家族の日常も変化していく。

 

 1971年から1983年をコロンビアのメデジンを舞台にモノクロとカラーの映像で描かれるのが本作の特徴。実在した疫学者エクトル・アバド・ゴメス教授とその息子の視点から描かれるのでかなりオフビートな作品である。しかし信念と気骨ある作品で暴力とドラッグは一切出てこないのでアメリカが描く南米映画とはかなり違う。

 

 エクトル教授がなぜ市長選まで出るようになり、そして暗殺されてしまったのかをえらく丁寧に描くので悪く言えばかなり退屈であるが、まあこういう映画があってもいいじゃないか。それでも特に最後の教授が暗殺されるシーンは観ていて辛いし、今までの幼少時代のカラーの演出を観た後だと、よりあのモノクロの暗殺シーンが強調される演出であった。そういう意味でもかなり練られた映画でもある。

 

 教授が公衆衛生学をメデジンで実践していったり、ポリオワクチンを広めていくあたり、非常に今日的なメッセージを含んだ作品である。キリスト教と科学はこの映画の重要なモチーフだ。

 

 教授の娘マルタが病気で死んでいき弱っていくのだが、あくまで教授は科学の観点から娘の見てしまい、何とか痛みを和らげようとするのだが、ああいう場合は科学というより娘に最後まで寄り添ってあげるのが正解だ。そのための愛情であり、キリスト教が強調されるんだけど、教授はそれを受け入れることができない。キリスト教の教えは必ずしも科学的なものではないから。教授として科学者としては医療行為を施したいど、父親としては愛情とただ側にいてやりたいという気持ちがせめぎ合っているシーンは観ていて非常に考えされるシーンだ。

 

 また映画として面白いのが、この映画はところどころ『ベニスに死す』を流すシーンがある。あれはおそらくこの映画のモチーフに疫病があるから使ったのかなと思ったが、教授が息子にこの映画について「この映画は究極の美についてだ」と感想を言うシーンがある。おそらく『ベニスに死す』の死ぬ主人公に亡くなってしまった娘マルタを重ねていたのか、それともいずれ死ぬ教授自身を重ねていたのか気になるところだ。