@GB19940919’s diary

GB(https://twitter.com/GB19940919) (twitter→GB19940919)の映画感想雑記です。劇場で観た映画からWOWOWやサブスクで観た映画やドラマの感想です。

『ユンヒへ』

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『ユンヒへ』(Moonlight Winter)

 

 韓国の地方都市で高校生の娘と暮らすシングルマザーのユンヒの元に、小樽で暮らす友人ジュンから1通の手紙が届く。20年以上も連絡を絶っていたユンヒとジュンには、互いの家族にも明かしていない秘密があった。手紙を盗み見てしまったユンヒの娘セボムは、そこに自分の知らない母の姿を見つけ、ジュンに会うことを決意。ユンヒはセボムに強引に誘われ、小樽へと旅立つ。

 

 まず舞台の小樽がすごく素敵だ。韓国人の監督がこんなに小樽を綺麗に撮るなんてすごいし、たぶんこの監督はどこでもきれいに撮ると思う。まあ確かに小樽の雪の感じは韓国にもああいう土地はありそうだし。また日本語の会話も上手いし、ああいう会話って本当によくあるし、ぜひこの辺の脚本の経緯も知りたい。それに登場人物たちが韓国語と日本語と英語を多用する感じも今っぽい。ただし北海道出身の方のレビューを観たら、その小樽描写に辛辣な批判をされていて、確かに北海道出身の方が観たらこの映画における北海道の描写は理想化しすぎているのかもしれない。特にその方はこの映画は小樽の宣伝映画だともおっしゃっていて、確かに本作は小樽の宣伝映画的なことを担っていると思う。まあ昔からこういうロケーションを多用した自分再発見映画はよくあるが、ほとんどがヘテロセクシャルの人々だったので、それがクィアの人々に移ったのだと思えば時代の進化を感じる。


 まず映画としてすごくよく出来ている。小物からちょっとした描写まで非常に丁寧だ。タバコの使い方も秀逸だ。たぶんタバコは登場人物たちの親密性を表しているし、たぶんタバコを吸いだしたのはジュンとユンヒ同じ時期だと思う。またレズビアン映画あるあるでもある。オシャレについても、ユンヒは韓国にいるときはメイクとか服装とか気にかける暇も余裕もないし金銭的にもそこんはかけたくないと思っているのに(そして娘にもそれを指摘されている)、小樽に旅行いくとどのタイミングでもちゃんとメイクしていて、それにコートを新調してオシャレになっている。(そしてそれもちゃんと娘に指摘された)。これだけでユンヒがそれくらい気合が入っているかが分かるし、小樽にいる間はもしかしたらどこかで再会できるかもしれないというユンヒのジュンへの思いと淡い期待を見事に表現した演出である。また登場人物がカメラを持つのも意味がある。タバコ、カメラ、オシャレとレズビアン映画原則が誠に詰まっている映画だ。またこのレズビアン映画原則を上手く用いた『キャロル』をかなり参考にしたのではないかと思う。


 映画は中年女性の本当の自分を取り戻すことに重きを置いており、過去に遡るシーンなどはないのも好感が持てる。たぶん他のクィア映画だと過去の描写とか入れてしまうと思う。それだと若い役者メインになってしまい、本作の意図とはずれてしまう。あくまで現在進行形で物語が進む。中年の女性二人が自分を取り戻すことに意味がある。また本作はクィア女性の物語であるが、恋愛を中心にしていないが、過去の好きという気持ちが、本当の自分を取り戻すことに大変力を尽くしてくれて最後は成長するという私好みの展開だったのもよい。最近クィア映画でも恋愛描写を観るのが辛い私にはありがたいし、クィアの成長物語が好きなんだなと改めて思った。しかし、ユンヒもジュンもクィアだけど、時代や回りの理解を得られず、本当の自分を隠して生きていったんだけど、二重にマイノリティでる二人にとって、クィアでいることは女性として生きていくことの中でもさらに隠して生きていかなければいけなかったことであったのだが、こういう二重にマイノリティの要素があるときは優先すべき隠すことと、先に受容していかなければいけない規範とかってあるよなと思う。