真摯にアメリカの白人男性のジェンダー問題に向き合ったSF映画
『カオス・ウォーキング』(Chaos Walking)
西暦2257年、汚染した地球を旅立った人類は新たな星「ニュー・ワールド」にたどり着くが、その星では男たちの頭の中の考えや心の中の思いが「ノイズ」となってさらけ出されてしまい、女は死に絶えてしまう。ニュー・ワールドで生まれ育った青年トッドは、一度も女性を見たことがなかったが、ある時、地球からやって来て墜落した宇宙船の生存者ヴァイオラと出会う。初めて見た女性のヴァイオラに恋心を抱くトッドは、ヴァイオラを利用しようとする首長のプレンティスから彼女を守ろうと決意。逃避行の中で2人は、星に隠された驚くべき秘密を知る。
見てびっくりしたというか、この映画はめちゃくちゃジェンダー映画だった。特にアメリカの白人男性ジェンダー問題を扱っている。まずニュー・ワールドとその入植者のモデルは絶対アメリカだ。トッドはそこで男性のみのコミュニティーで育つ。もちろんトッドの育て親はおそらくゲイカップルの父親2人だが、男性のみのコミュニティーで育っているため禁欲を美徳とする有害な男性性を身に付けている。しかしその男性性を中々身に付けることができず苦労している最中に空から女の子(ジェダイの騎士)が降ってくる。
そして彼女と旅をしていく中で有害な男性性コミュニティを抜け出し、自分の本当のなりたい姿と自分の気持ちに素直になることを学んでいく。そして自分の住んでいたコミュニティの嘘に気付き、それと対峙することで自由になっていく。そして最後は母親の徳を身に付ける。まあここ数年のアメリカの政治状況のせいで有害な男性性と父性を考えざるを得ない状況になっているので、それに呼応した作品がたくさん作られてきたが、本作もその流れの中で作られたのかと思う。評価は低いが、私はたいへんよく出来た映画だと思う。強いて言うなら、もう少しデイジー・リドリーの活躍が観たかった。
男性が禁欲的な感情を吐露して泣くという本作のシーンは最近だと『幸せのまわり道』に似ていたし、自分の住んでいたコミュニティがたいへん問題あるとこだったというのは『エターナルズ』に似ていたし、主人公が最後に母親の力と徳を思い出すのは『シャン・チー』に似ていた。