90年代ロック最高...
『ハースメル』(Her Smell)
パンクロックバンド、サムシング・シーは1990年代に大ブレイクしたが、21世紀に入るとその勢いに陰りが見えてきた。ボーカルのベッキーはドラッグの常用者であり、気分の揺れが酷く、霊媒師の力を借りなければ舞台に上がれない状態にあった。ベッキーの常軌を逸した言動はやむことがなく、それが原因で新しいアルバムの製作が頓挫してしまった。
本作はそんなベッキーが立ち直るまでを描き出していく。
今年はとにかく『ティーン・スピリット』『ポップスター』『ワイルド・ローズ』等の女性がシンガーになるまたは復活するがテーマの作品が多く、この作品もそれに連なる作品である。(一人の著名女性ミュージシャンが過去の言動で落ちぶれていったが、一念発起しまた復活するまでを描くという意味では限りなく『ポップスター』に近い)
まずサムシング・シーがデビューした90年代を本作の前半部分にあててるのが良い。この映画を作った人は音楽シーンに詳しい人だ。そう90年代って多種多様な女性ミュージシャンが勃興していった時代で、今の音楽シーンの基礎を作り上げている時代だったのだ。ライオット・ガール、ノーダウト、ガーベッジ、アラニス・モリセット、フィオナ・アップル等の女性ロック・オルタナシーンが生まれ、ローリン・ヒルがR&Bシーン
にマスターピースを誕生させグラミーをとり、スパイス・ガールやブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラが生まれたのだ。そう90年代の音楽シーンって本当女性たちが作り上げたんだよね。サムシング・シーもその一連で生まれた女性バンドという設定だ。
映画の冒頭はサムシング・シーのバンドとしての見えない未来やベッキーの人としての不安定さを、手持ちカメラで追いながら撮影するスタイルで、観ていてかなり疲れる。セリフも気の抜けない登場人物の些細な性格を表すようなセリフが何気ない会話の中で出てくるのでかなり集中して観ないといけない。映画の前半はかなり神経を使いながら観る作品である。後半はベッキーが心身ともに落ち着き、隠居している描写から始まるのでカメラも通常に戻り、セリフも少ないがとても優しいセリフが続く。この差を見事作り上げているのが良い。
何よりベッキーを演じるエリザベス・モスがすごい。(特にアンコールにはいかずI'm Doneっていうところ凄い)彼女の映画で一番好きかもしれない。映画としても、女性バンドとして、ミュージシャンとしての葛藤や成功がよく描かれていて、ベッキーの人物描写も良い。